古代エジプトのピラミッドには、今なお多くの謎が残されています。
なぜ、これほど巨大な石造建築を造ったのか。
なぜ東西南北を強く意識した配置になっているのか。
そして古代エジプト人は、ピラミッドの向こうにどのような世界を見ていたのでしょうか。
ここでは、古代エジプトの考古学的な知見を土台にしながら、東洋の風水思想との類似性に注目した一つの資料を手がかりに、ピラミッドを少し違った角度から眺めてみます。
※本ページで紹介する「風水」「陰陽」「月光門」「逆ピラミッド」「惑星との対応」などは、古代エジプト学で確立された学説ではなく、この資料独自の比較・考察を含みます。

なぜピラミッドはナイル川の西にあるのか
ギザの三大ピラミッドは、ナイル川の西側に築かれています。
古代エジプトでは、太陽が昇る東と、太陽が沈む西には、それぞれ象徴的な意味がありました。
東は太陽が生まれる方向。
西は太陽が沈み、死者の世界へ向かう方向。
そのためナイル川西岸には、王墓や墓地が数多く築かれました。
ピラミッドもまた、単に土地の空いている場所に建てられた巨大建築ではなく、太陽、方位、死と再生という古代エジプトの世界観の中に置かれた建築として見ることができます。

東は現世、西は来世
資料では、この東西の関係をさらに明確に、
東=現世
西=来世
という二つの空間として捉えています。
太陽は東から昇り、西へ沈む。そして翌朝には再び東から姿を現す。
古代エジプトの宗教において、太陽の運行と死後の再生は深く結びついていました。
王の死も終わりではなく、再生へ向かう過程として考えられたのです。

遠く離れた東洋にもあった「天地」の思想
ここから、この資料独自の視点が始まります。
東洋の風水では、人間の住む場所を単独で考えるのではなく、天地、方位、水、山、陰陽などとの関係から空間を読み解いてきました。
古代エジプトと中国の風水に直接の関係があったという証拠はありません。
しかし二つを並べてみると、
天と地、太陽、東西南北、生と死、人間と自然
という共通する要素が見えてきます。
異なる文明が、それぞれ「人間は宇宙のどこに存在しているのか」を考えた結果、似た空間概念にたどり着いたのではないか。
資料はそこに注目しています。

天と地を結ぶピラミッド
ピラミッドは、四角形の大地から四つの面が立ち上がり、一つの頂点へ集まる形をしています。
地上から見れば、その頂点の先にあるのは天空です。
資料では、この形を
大地 → ピラミッド → 太陽
という垂直方向の空間として捉えています。
そして、死後の王が太陽神と結びつき、再生していく世界を、この形の中に読み取ろうとしています。

地上のピラミッドの下に、もう一つのピラミッド?
資料では、私たちが目にしているピラミッドを「現世のピラミッド」とし、その地下には目に見えない「来世のピラミッド」が存在するという考え方が示されています。
二つを上下に合わせると、一つの大きな形になる。
もちろん、地下にこのような巨大な逆ピラミッドが実在するという考古学的証拠があるわけではありません。
これは、現世と来世を対称的な空間として表現した、資料独自の思想モデルと見るべきでしょう。
しかし図として見ると、「生と死」「地上と地下」「現世と来世」を一つの形で表そうとした発想は非常に印象的です。


「月光門」と呼ばれる入口
さらに資料では、ピラミッドの入口を風水の考え方と重ね、「ムーンライトゲート(月光門)」と呼んでいます。
古代エジプト学でピラミッドの入口が「月光門」と呼ばれていたわけではありません。
ここも資料独自の名称です。
興味深いのは、その入口を単なる出入口ではなく、現世から別の空間へ移る境界として捉えていることです。
扉を一枚越えることで、こちら側から向こう側へ移る。
建築における「入口」に精神的な意味を与える考え方は、文明を問わず見られるものです。

三つのピラミッドを三つの惑星に見立てる
資料の考察は、さらに宇宙へ広がります。
クフ王のピラミッドを地球、カフラー王のピラミッドを金星、メンカウラー王のピラミッドを火星に対応させ、三つのピラミッドを太陽系の一部として読み解こうとしています。
これは現在の考古学で認められたピラミッド建設の説明ではありません。
けれども、この図では、ピラミッドを単なる王墓としてではなく、地上に表現された宇宙モデルとして読み解こうとしていることが分かります。

ピラミッドの最大の謎とは
ピラミッドについて語られるとき、「どうやって巨大な石を運んだのか」という建設技術の謎に目が向きがちです。
しかし、もう一つの問いがあります。
なぜ造ったのか。
なぜ巨大な石を積み上げ、これほど明確に方位を意識し、天空へ向かう形を造ったのか。
古代エジプトの宗教思想と、後世の東洋の風水思想は同じものではありません。
しかし両者を並べることで、
太陽と人間。
天と地。
東と西。
生と死。
現世と来世。
古代の人々が世界を理解するときに考え続けた、普遍的なテーマが見えてきます。
そしてピラミッドは、現代にも造られた
数千年後、人類は再びピラミッドを造りました。
今度の材料は巨大な石ではなく、ガラスと金属。
パリ、ルーヴル美術館の中庭に建つガラスのピラミッドです。
古代エジプトのピラミッドとは目的も時代もまったく違います。
それでも私たちは、その形を見るだけで、なぜか「ピラミッド」だと理解します。
四角い大地から立ち上がり、一点で天空へ向かう形。
それほどまでにピラミッドという形は、数千年という時間を越えて、人間の記憶に残り続けてきたのでしょう。

ピラミッドの秘密とは、その内部に隠された何かだけではない。
人間がなぜ、この形に「宇宙」を見ようとしてきたのか。
その問いそのものが、ピラミッド最大の謎なのかもしれない。
風水と建築の基本的な考え方については、参考資料「風水と建築『天・地・人』から空間を考える」で紹介しています。