相似象とは、天・地・人から自然の破壊と建築を考える

山が崩れる。

川があふれる。

強い雨が降り、地面に水が集まり、その水が低い場所へ流れていく。

自然の中で起きる出来事は、一つの場所だけで完結しているわけではありません。

山、森、川、海、大気、そして人間がつくった都市や建築。

それぞれは別々に存在しているように見えますが、実際には互いにつながっています。

ここで紹介する資料では、そのつながりを考えるための一つのキーワードとして、「相似象(そうじしょう)」という言葉を使っています。

この「相似象」は、現代の自然科学で一般的に確立された災害理論の名称ではありません。

しかし、自然、大地、建築、人間を一つの連続した空間として捉えようとする考え方には、これまで紹介してきた風水の「天・地・人」と重なる部分があります。

「相似形」から「相似象」へ

数学や幾何学には「相似形」という言葉があります。

大きさは違っていても、形が同じ、あるいは対応する部分が一定の比率を持っている図形です。

この資料では、その「相似」という考え方を形だけに限定せず、自然界で繰り返し現れる形や流れ、変化へと広げて捉えています。

それを「相似象」と呼んでいます。

山から丘へ。

丘から森へ。

森から住宅地へ。

そして家の中へ。

大きさも役割も違います。

けれども、一つの場所で起きた変化が次の場所へ伝わり、さらにその先へ影響していく。

資料では、こうした連続性を「相似象」という独自の視点から説明しています。

天と地は切り離せない

資料には、「天地一体」、そして「天の写しは大地」という考え方が登場します。

これは科学的な法則を示す言葉というより、この資料が自然をどのように捉えているかを象徴する表現と考えると分かりやすいでしょう。

天の写しは大地を表した資料図

空には、太陽があります。

風が吹き、雲が生まれ、雨が降ります。

地には、山があり、谷があり、川があり、海があります。

雨は大地へ落ち、川となって海へ向かいます。海の水は蒸発し、再び大気へ戻ります。

天と地は、完全に別々の世界ではありません。

天地一体と大地の関係を表した資料図

そして、その天と地の間にいるのが「人」です。

これは「風水と建築」で見てきた「天・地・人」という考え方にもつながっています。

空から地下まで、一つの空間として見る

もう一つの図では、地表を境として、その上と下にさまざまな空間が描かれています。

上には「スカイチー」。地表には人間と建築。地下には「グランドチー」「マグネティックチー」などが描かれています。

スカイチーとグランドチーを表した資料図

これらの「チー」を、現代科学における電磁波や地磁気、地下水などとそのまま同一視することはできません。

この図は、資料独自の空間モデルとして見る必要があります。

しかし、図全体から読み取れる考え方は興味深いものです。

建物は、地表だけに存在しているのではない。

上からは太陽、風、雨を受けます。

下には地盤や地下水があります。

周囲には山や川、植物、道路、隣の建物があります。

そのすべての条件が交わる場所に、建築があります。

地中の相似象 ― 「ジオパシフィックストレス」

ここまで見てきた相似象は、山、川、森、都市、建築など、主として地表で起こる現象でした。

しかし、この資料では、もう一つの領域にも目を向けています。

私たちの足元――地中、地下の世界です。

資料では、地下で生じるさまざまな影響を考えるために、「ジオパシフィックストレス」という言葉を使っています。

スカイチー、グランドチー、マグネティックチー、ジオパシフィックストレスを表した3チー空間の資料図
「3チー空間」を表した資料図。地表を境に、上空のスカイチー、地表付近のグランドチー、地下のマグネティックチーとジオパシフィックストレスが描かれている。

この図では、人間が立つ地表面(GL)を境として、空間を上と下へ広げて捉えています。

上空には「スカイチー」、地表付近には「グランドチー」、地下には「マグネティックチー」と「ジオパシフィックストレス」が描かれています。

また上空には「電磁波(ディストラクション)」、地下には「地下水脈等」という記述もあります。

つまり、この資料では、人間の暮らす空間を地表だけで考えるのではなく、空から地表、さらに地下までを一つの立体的な空間として捉えようとしていることが分かります。

地下にある三つの領域

資料では、地下について大きく三つの要素が挙げられています。

  • 地震に関係する地下構造 ― プレートや活断層など
  • 地下水・地下水脈
  • 磁場・磁力線など ― 資料では「マグネティックチー」と表現
磁力線とマグネティックチーについて示した資料図

資料では、地下の状態を考える要素の一つとして、磁力線や磁場にも注目しています。

これを「マグネティックチー」という言葉と関連づけながら、目に見えない地下の空間を捉えようとしています。

ただし、ここでいう「マグネティックチー」は資料独自の考え方であり、物理学で扱われる地磁気や磁場とそのまま同じものではありません。

地震や活断層については、地震学や地質学という専門分野があります。

また地下水や地盤の状態も、実際の建築計画では重要な調査対象になります。

つまり、建物は地表の上に見えている部分だけで成立しているのではありません。

その下にどのような大地があるのか。

そこまで含めて土地を見るという考え方です。

「可視の相似象」と「不可視の相似象」

この資料では、もう一つ興味深い区分をしています。

山、川、斜面、森など、目で確認できる自然の形や変化を「可視の相似象」と呼んでいます。

それに対して、地下構造、地下水、磁場など、地表から直接見ることのできない領域を「不可視の相似象」として捉えています。

地上には、電磁波、紫外線、放射線、気圧など、目には見えなくても観測することのできるさまざまな現象も存在します。

資料では、こうした目に見えない環境まで含めて、人間の暮らす空間を考えようとしています。

「チー」と科学的な現象は分けて考える

ここで注意しておきたいことがあります。

この資料では「チー(気)」という言葉を、空間や環境を説明するために使っています。

一方、電磁波、地磁気、放射線、地下水などは、現代科学によって測定や研究が行われている現象です。

この二つを、そのまま同じものとして扱うことはできません。

また資料では、地下水脈や磁場などと人間の脳、思考、行動との関係についても言及していますが、こうした関係を一般的な科学的事実として説明することはできません。

学校、幼稚園、病院、司法施設などの建設についても、資料では地下環境を慎重に考えるべきだとしていますが、実際の建築規制や許可基準は、国や地域、対象となる危険の種類によって異なります。

したがって、「ヨーロッパではこうした土地には建築許可が下りない」と一括して説明することもできません。

ここでは、これらを「目に見える地表だけでなく、その下にある見えない大地まで含めて空間を考える」という、この資料独自の視点として紹介します。

見える大地と、見えない大地

山を見ることはできます。

川を見ることもできます。

しかし、その山の地下にある地層や断層、地下水を、地上から直接見ることはできません。

それでも、私たちが建物を建てる大地は、地表だけでできているわけではありません。

見える地形の下に、見えない大地がある。

地上から地下へ視点を移すことで、「相似象」が捉えようとしている空間は、さらに立体的になります。

海も大地の一部として考える

この資料で興味深いのは、陸地だけでなく、海も広い意味で大地の一部として考えていることです。

海と空と陸を、それぞれ独立したものとして見るのではありません。

海水温が変われば、大気との間でやり取りされる熱や水蒸気も変化します。

大気の状態は雲や降水と関係し、降った雨は地表や河川を通って、再び海へ戻っていきます。

資料では、こうした循環するイメージを「回帰」という言葉でも表現しています。

大気と大地の回帰を表した資料図

ただし、個々の豪雨や洪水などの原因は複雑です。

「海水温が上がったから、この豪雨が起きた」と単純な一対一の関係で説明できるものではありません。

気象現象そのものについては、気象学などによる科学的な分析と、この資料が示す思想的なモデルを分けて考える必要があります。

破壊は、その場所だけで終わらない

相似象を説明する資料の中で、特に重視されているのが「破壊の連鎖」です。

例えば山の斜面が崩れたとします。

崩れた土砂は、その場所にとどまるとは限りません。

斜面を下り、森を通り、道路や住宅地へ達することがあります。

自然空間から建築空間へ続く破壊を表した資料図

上流で起きた変化が、下流へ影響する。

山で起きたことが、川へ伝わる。

川で起きたことが、町へ伝わる。

自然の中では、場所と場所の間に境界線を引くことはできても、そこで自然の働きまで完全に切れるわけではありません。

相似象と破壊の連鎖を表した資料図

資料では、このような現象を「ディストラクション(破壊)」という言葉を使いながら、一つの連続した流れとして捉えています。

ここで注意したいことがあります。

資料には、山の高さと崩壊の到達距離を一定の比率で説明する記述がありますが、実際の土砂災害の範囲は、地形、勾配、地質、土質、水分量、崩壊規模などによって大きく異なります。

したがって、この資料の数値を実際の防災上の安全基準として使うことはできません。

しかし、ここから読み取れる一つの考え方があります。

家を見るなら、家だけを見ない。

その背後に山があるのか。川はどこを流れているのか。土地は高いのか、低いのか。水はどちらへ流れるのか。

建築を考える前に、その建築が置かれる大地を見るということです。

自然から都市へ、都市から家へ

山。丘。森。都市。住宅。室内。

私たちはこれらを別々のものとして分類します。

しかし、一軒の家を少しずつ遠くから眺めてみると、その家は町の一部です。

町は地域の一部です。地域は地形の一部です。そして地形は、大地の一部です。

逆に近づいていけば、地域から町へ、町から敷地へ、敷地から家へ、家から一つの部屋へと空間は小さくなっていきます。

ジオメトリック相似象を表した資料図

資料では、こうした大小の空間の連続性にも「相似象」という考え方を重ねています。

大地を見ることから、家を見る。

そして、

家を見ることから、もう一度大地を見る。

視点を大きくしたり、小さくしたりしながら、人間の暮らす空間を考えるわけです。

「守る」という発想

この資料が最後に向かうのは、未来を占うことではありません。

中心にあるのは、

「人間の暮らす空間を、破壊からどう守るか」

という問いです。

自然空間を考える。都市空間を考える。建築空間を考える。そして室内空間を考える。

一つずつ別々に考えるのではなく、それらのつながりを見る。

空間の流線とジオマンシアプランニングを表した資料図

資料では、その考え方を「ジオマンシア・プランニング」などの言葉で表しています。

これも一般的な建築学の標準的な専門用語としてではなく、この資料の中で提案されている考え方として理解するのが適切でしょう。

流線の物語 ― 空間の流れと人間の動き

相似象の考え方は、自然の中で起こる破壊の連鎖を見るだけではありません。

もう一つ重要になるのが、「流線」です。

山から水が流れ、風が通り、人が移動する。道路には車が走り、橋は川や谷を越え、都市の中では人や物が絶えず移動しています。

自然から都市へ。都市から建築へ。そして建築から人へ。

それぞれを別々に見るのではなく、連続する一つの「流れ」として捉えていきます。

自然界から建築空間へつながる空間の流線
自然空間から都市・建築空間へとつながっていく「流線」の考え方。

空間には、さまざまな「流れ」がある

自然界から建築空間までを見渡すと、そこには風や水、人の動き、空間のつながりなど、さまざまな「流れ」があります。

ここでは、それらを「ストリーム」という視点から捉えていきます。

磁性に関わる「マグネティックストリーム」、太陽との関係から捉える「太陽のストリーム」、地球の自転軸を基準としたストリームなど、いくつかの基本的な流れを設定し、それらを大地や建築空間の流線計画へ展開していく考え方です。

大切なのは、それぞれのストリームを単独で見ることではありません。

大地から空へ。空から大地へ。大地から建築へ。そして建築から人へ。

異なるスケールの空間を、一つにつながった流れとして見ていきます。

海と大地も、一つの流れの中にある

海と大地のつながりを表した図

大地を考えるとき、陸地だけを見ていては全体を捉えることができません。

川は海へ流れ、海から蒸発した水は大気へ上がり、雲となり、再び雨となって大地へ戻ります。

海、空、山、川は、それぞれ独立して存在しているのではなく、大きな循環の中でつながっています。

その中に都市があり、道路があり、建築があり、人間の暮らしがあります。

建築の流線を考えることは、その建築が置かれている大地の流れを考えることでもある。

視点を建物の外へ広げていくと、流線という言葉の意味も大きく変わってきます。

自然の流れから、人の動きまで

こうした「流れ」は、大きな自然空間から、私たちの日常の動きへと少しずつスケールを変えていきます。

  1. 自然界的(地政学的空間)流線
    地形や水、風など、自然環境そのものが持つ大きな流れ。
  2. 自然界との共生・融合を考えた空間構成
    道路や橋など、人間がつくる空間を自然の流れの中にどのように組み込むかを考える。
  3. 導線計画
    自然と人工空間の関係を踏まえ、人や物を目的地へ導くための基本的な流れを計画する。
  4. 動線計画(A)
    大型車両など、目的別の大きな移動を考える。
  5. 動線計画(B)
    中小型車両など、それぞれの目的に応じた移動を考える。
  6. 地歩ポイント ― 動線の目的到達点
    人や車が最終的にどこへ到達するのか。その目的地と周辺空間、人々の流れまで含めて考える。

このように見ると、「流線」は単に道路や廊下の動線を考えることではありません。

自然の流れから、道路、橋、車、人、そして目的地までを、一つにつながった空間として考える。

それが、ここでいう「流線」の基本的な考え方です。

大地を「纏う」

ここから、流れと空間の関係をもう少し立体的に見てみましょう。

大地には地形があり、高低差があり、方向があります。そして、その上を風や水、人など、さまざまなものが動いています。

大地を纏う空間について考える図1

建築を大地の上に置かれた独立した物体として見るのではなく、大地の形や周囲の流れを受けながら存在する空間として捉えます。

大地を纏う空間について考える図2

ここでいう「纏う」とは、大地を覆い隠すという意味ではありません。

大地がもともと持っている形や方向、周囲との関係を読み取りながら、人間の空間を重ねていくという考え方です。

大地と建築空間の関係を考える図3

そこには、外から内へ入る流れがあります。

内から外へ抜ける流れもあります。

そして一つの空間から、次の空間へ向かう流れがあります。

空間を通過する流れについて考える図4

その流れを途中で断ち切るのではなく、どのように受け止め、どの方向へ導いていくのか。

ここから、流線は単なる人間の移動経路ではなく、大地と建築を結ぶ空間構成として捉えられるようになります。

大地から建築へ続く空間の流れを考える図5

大地の流れを読み、その流れの中に建築を置く。

そして建築の中に入った流れを、さらに人間の動きへとつないでいく。

こうして、自然界の大きなストリームから、建築内部の小さな流線までが連続していきます。

ダイナミック・ムーンライトゲート

こうした「流れ」を具体的な空間として考えるとき、興味深い例として登場するのが「ダイナミック・ムーンライトゲート」です。

ダイナミック・ムーンライトゲートに関する空間構成

ゲートとは、単に人が通るための入口ではありません。

こちら側と向こう側を分ける境界であると同時に、二つの空間をつなぐ場所でもあります。

人はゲートへ向かい、そこを通過し、別の空間へ出ていきます。

つまりゲートそのものが、「流れを受け、通し、次の空間へ送り出す場所」になります。

ダイナミック・ムーンライトゲートとストリームの関係

ここにストリームという考え方を重ねると、建築の見方が変わってきます。

建物の形だけを見るのではありません。

流れはどこから来るのか。
どこを通るのか。
どこで方向を変え、どこへ抜けていくのか。

その連続性の中で建築を考えます。

ダイナミック・ムーンライトゲートと空間の流れ

「ダイナミック・ムーンライトゲート」という考え方も、一般的な建築学で確立された設計理論として紹介するものではありません。

ここでは、目に見えない「流れ」を、建築や空間の形としてどのように捉えることができるのかを考える一つの試みとして見ていきます。

大地から始まった流れが、建築へ入り、人の動きへつながり、再び外の空間へ戻っていく。

建築は流れを止める箱ではなく、流れの途中に置かれた空間でもある。

大地から始まった流れが、建築へ入り、人の動きへつながり、再び外の空間へ戻っていく。

建築は流れを止める箱ではなく、流れの途中に置かれた空間でもある。

ダイナミック・ムーンライトゲートを取り入れたホテル空間
ダイナミック・ムーンライトゲートの考え方を空間へ展開した例。

図の中で示されていた「流れ」を実際の建築空間に重ねて見ると、ゲートの意味がより分かりやすくなります。

入口を一つの点として考えるのではなく、その手前から始まり、ゲートを通過し、その先の空間へと続いていく一連の流れとして捉えるわけです。

そして、この「入口から入り、空間を通り、次の場所へ抜けていく」という考え方は、さらに「地門」と「天門」という空間の捉え方へつながっていきます。

「地門」から「天門」へ

地門から天門への流線を表した図

流線を考えていくと、「地門」と「天門」という考え方にもつながります。

ここでも重要なのは、一つの場所だけを見るのではなく、空間の入口から出口、その途中にある人や物の動きまでを連続したものとして見ることです。

「地門」「天門」は一般的な建築学の専門用語ではなく、ここでは空間の流れを考えるための一つの捉え方として紹介しています。

災害が起きたとき、流線はどうなるのか

そして、この「流れ」という視点が特に重要になるのが、災害が発生したときです。

道路が寸断されれば、人の移動だけでなく、救援や物流にも影響が広がります。

さらに道路や橋などの損傷は、電気、水道、通信といった生活を支えるインフラへのアクセスにも影響し、その先の地域が孤立することもあります。

つまり、一つの場所で発生した破壊が、別の場所の機能を失わせ、さらにその影響が次の場所へ広がっていくことがあります。

ここでも「相似象」で考えてきた「破壊の連鎖」が現れます。

だからこそ、災害が起きてから対応するだけではなく、

「ここが失われたら、次に何が起きるのか」

を、あらかじめ考えておく必要があります。

「逆相似象」――起きる前から逆に考える

こうした考え方を、ここでは「逆相似象」と呼んでいます。

起きてしまった現象から原因を振り返るだけではなく、将来起こり得る破壊を仮定し、そこから逆方向に空間や流線を考えていく。

例えば、

「この道路が通れなくなったらどうするか」
「この橋が失われたら別の経路はあるか」
「この地域が孤立したら人や物資はどう動くか」

というように考えていきます。

こうした思考は、「アブダクションスキル(仮説創造思考)」とも関連づけて考えることができます。

現在ある問題を洗い出し、そこから起こり得る状況について仮説を立て、再び空間計画へ戻していくという考え方です。

KJ法などによって現状の問題を整理することも、そのための一つの方法として位置づけられています。

ここでいう「逆相似象」などの表現は、一般的な防災学や建築学で確立された災害予測の専門用語ではありません。

しかし、「何かが起きてから考えるのではなく、起きたときに何が連鎖するのかを先に考えておく」という視点は、防災や空間計画を考える上でも重要な問いを投げかけています。

自然と人間の「共生と融合」

そして、この考え方が最後に行き着くのが、自然と人間との関係です。

地球の大地は、およそ45億年という長い時間の中で形成されてきました。

山を削り、川に橋を架け、道路を通し、建築物をつくることで、人間はその大地の上に新しい空間をつくってきました。

しかし、人間がつくる空間も、自然から完全に切り離されて存在することはできません。

この資料では、それを「自然界の意志と人間界の意志の共生と融合」という言葉で表現しています。

「自然界にも意志がある」という表現は、自然科学上の事実を意味するものではありません。

ここでは、自然を人間が自由に支配できる対象として見るのではなく、長い時間をかけて形成された地形、水、風、大地の働きを尊重するための比喩的な表現として捉えると分かりやすいでしょう。

自然がつくった大きな空間の中に、人間がつくる小さな空間をどう置くのか。

道路をどこへ通すのか。橋をどこへ架けるのか。建築をどこへ置くのか。そして、人や物がどのように動くのか。

それらを自然とは別のものとして考えるのではなく、自然の大きな流れの中にある人間の空間として考える。

自然を読み、人間の空間をつくり、再び自然との関係を見る。

それが、この資料のいう「共生と融合」へとつながっています。

現代の災害から考えてみる

大雨が降ったとき、私たちは雨だけを見てしまいがちです。

しかし実際には、その雨がどこへ落ちるのかが重要です。

山へ落ちる。森へ落ちる。道路へ落ちる。川へ集まる。低い土地へ流れる。

そして、その途中に人間の暮らす町や家があります。

地震でも同じです。同じ揺れであっても、地盤や地形、建物の構造などによって被害の現れ方は異なります。

だから現代の防災では、気象情報だけでなく、地形、地質、河川、地盤、ハザードマップ、建築構造など、さまざまな情報を組み合わせて判断します。

「相似象」という資料独自の考え方を、そのまま災害予測に使うことはできません。

けれど、

一つの現象だけを見るのではなく、その前後と周囲を見る。

という視点は、現代の私たちにも考えるきっかけを与えてくれます。

石でつくられた空間 ― ストーンサークルから考える

ここで少し、石そのものに視点を戻してみましょう。

人間は古くから、大地にある石を動かし、立て、並べることで、新しい空間をつくってきました。

その象徴的な例の一つが、ストーンサークルです。

一つの石だけなら、それは大地にある石です。

しかし複数の石をある位置に配置すると、その内側と外側が生まれ、人が立つ場所が生まれ、方向が生まれます。

石を置くことによって、大地の上に新しい空間が生まれる。

空と大地の関係を考える資料図

この資料では、石が置かれた場所だけを見るのではなく、その上に広がる空、周囲の大地、方位、そして人間の位置まで含めて空間を捉えようとしています。

地上に置かれた石と、その上に広がる空。そこに人が立つことで、これまで見てきた「天・地・人」という関係が、具体的な空間として見えてきます。

石を並べると、空間が生まれる

ストーンサークルについて考える資料図1

ストーンサークルを見るとき、私たちは一つ一つの石に目を向けがちです。

しかし、石と石の間にも空間があります。石の内側にも外側にも空間があり、人はその中を歩き、立ち止まり、ある方向を見ます。

ストーンサークルについて考える資料図2

つまり重要なのは、石そのものだけではなく、石がどのような関係で配置され、その配置によってどのような空間が生まれるのかということです。

ストーンサークルについて考える資料図3

円という形には中心があります。

中心が生まれれば、そこから外へ向かう方向が生まれます。そして外側から中心へ向かう流れも生まれます。

この資料では、こうした石の配置と空間の関係にも、相似象や流線の考え方を重ねています。

ストーンサークルと空間の関係を考える資料図

ただし、ここで示されている読み方を、そのまま古代のストーンサークルを造った人々の意図として断定することはできません。

ここでは、古代遺跡の歴史的解釈そのものではなく、石を配置することで、人間が大地の上にどのような空間をつくることができるのかを考えるための資料として見ています。

囲む空間から、開かれた空間へ

開かれた空間について考える資料図

石によって囲まれた空間がある一方で、人間のつくる空間には、外へ向かって開かれた場所もあります。

広場や道、建築の入口と出口も、人が集まり、離れ、別の場所へ向かう「流れ」を生み出します。

閉じることと、開くこと。中心をつくることと、外へつなぐこと。

こうして見ると、石の配置、建築、都市、そして人の動きは、別々の話ではなくなります。

大地の上に物を置くことは、その場所に新しい関係と流れをつくることでもある。

そして、その最も古く、単純で、力強い材料の一つが「石」でした。

石を見ることは、大地を見ること

ここで「大理石の物語」に戻ってみましょう。

大理石も御影石も、最初から建築材料だったわけではありません。

山の一部でした。

大地の一部でした。

地下深くで生まれ、長い地質学的な時間を経て、人間によって切り出されます。

それが板に加工され、海を渡り、都市へ運ばれ、建築の床や壁になります。

山にあった石が、家の中にある。

考えてみれば、これも大地と建築が完全には切り離せないことを象徴する出来事です。

私たちは建物の中で石を見るとき、その模様や色だけを見ています。

しかし、その向こうには山があります。地層があります。水があります。そして途方もない時間があります。

天・地・人、その間に建築がある

天には、太陽、風、雨、季節があります。

地には、山、川、海、地形、地質、そして石があります。

その間で、人が暮らしています。

そして人は、その大地の上に家を建て、町をつくり、都市をつくってきました。

自然と建築を完全に別のものとして見るのではなく、

天から地へ。
地から建築へ。
建築から人へ。

そのつながりを見る。

この資料で使われている「相似象」という言葉は、科学的に確立された災害理論ではありません。

それでも、そこから一つの問いを取り出すことはできます。

「私たちの暮らす場所は、その周囲の自然と、どのようにつながっているのだろうか。」

家だけを見るのではなく、その土地を見る。

土地だけを見るのではなく、その周囲の山や川を見る。

そして大地だけを見るのではなく、その上にある空や気候まで見る。

「天・地・人」という古い世界観から現代の建築を眺めてみると、家は自然から切り離された箱ではなく、大きな自然の中に置かれた、人間の暮らす小さな空間として見えてきます。


風水と「天・地・人」の基本的な考え方については、こちらの参考資料でも紹介しています。

▶ 風水と建築 ― 「天・地・人」から空間を考える

▶ 風水・家相の家づくり ― 心地よい住まいを考える昔からの知恵