この石を輸出する会社の資料には、しばしば「インドの重要な穀倉地帯」から採れる石だという説明がついている。だが実際に産地を辿ってみると、その言葉はやや正確さを欠いていることに気づく。
インペリアルブラウンが切り出されるのは、チェンナイから北西へおよそ250キロ、カルナタカ州との州境に近いクリシュナギリ県である。この一帯は、稲作地帯というより、むしろマンゴーの名産地として知られている。
「インドのマンゴーの都」と呼ばれるほど果樹栽培が盛んな肥沃な土地であり、そのすぐ足元に、この石は眠っている。

黒い丘という名前
肥沃な平野の只中に、なぜ石切場があるのか。答えは、その土地の名前そのものに刻まれている。
「クリシュナギリ」とは、サンスクリット語で「黒」あるいは「暗色」を意味する「クリシュナ」と、「丘」を意味する「ギリ」を組み合わせた言葉である。この地には、平坦な農地の中から突如として盛り上がる、まるまるとした花崗岩の丘、地質学で「インゼルベルク」と呼ばれる残丘が点在しており、その岩肌は光の加減によって黒々と見える。
地名は、この土地の下に眠る御影石の色を、そのまま言い当てていたことになる。マンゴーの果樹園が広がる平野と、その向こうにそびえる黒々とした花崗岩の丘という組み合わせは、この土地を訪れる者の目には、いささか奇妙な取り合わせに映るかもしれない。だが地元の人々にとっては、果実を育む柔らかな土壌も、その下に眠る硬い岩盤も、同じクリシュナギリという土地が持つ、表裏一体の顔にすぎない。
王が築いた丘の砦
この丘が歴史の表舞台に立つのは、16世紀のことである。南インドに覇を唱えたヴィジャヤナガル王国の王、クリシュナデーヴァラーヤが、この花崗岩の丘の上に砦を築いた。
丘の名は王の名にちなんで「クリシュナギリ」と呼ばれるようになったとも伝えられている。この場所が選ばれたのには理由があった。北のデカン高原と、南のカーヴェリ川流域を結ぶ幹線路の要衝にあたり、高台からは軍勢の動きも交易隊の往来も一望できたからである。王はこの丘を押さえることで、南北を結ぶ道そのものを掌握しようとしたのだった。
三百年、奪い合われた丘
築かれた砦は、山麓に広がる城下町(現地では「ペタ」と呼ばれる)と、丘の頂に築かれた城塞部からなる、堅牢な複合防御施設だった。丘そのものの急峻な岩肌が天然の壁として機能したため、人工の城壁は最小限で済んだという。王はこの丘を家臣ジャガデーヴァラーヤンに与え、彼の武勲を称えたと伝えられている。
以来この丘は、実に多くの勢力の手を渡り歩くことになる。ヴィジャヤナガル王国の衰退後は、ビジャープル・スルターン国の支配下に入り、17世紀にはマラーター王国の始祖シヴァージーによる遠征の舞台となった。
その後はマイソール王国、さらにハイダル・アリーとその子ティプー・スルターンの手に渡り、最終的には18世紀末、イギリス東インド会社がこの丘を接収した。
一つの花崗岩の丘をめぐって、300年近くにわたり、南インドの覇権を争った勢力が次々と入れ替わっていったことになる。この丘は文字通り、幾つもの「帝国」が奪い合った土地だったのである。
静かになった丘
独立後のインドで、この丘はようやく静かな時代を迎える。1978年、タミルナドゥ州政府はタミルナドゥ鉱物公社を設立し、州内各地の花崗岩資源の開発に乗り出した。クリシュナギリ県の丘陵地帯も、その採石対象に含まれている。かつて軍勢が行き交った峠道の下から切り出される茶色の御影石は、今では「インペリアルブラウン」の名で世界各地に輸出され、日本の建材市場にも流通している。
砦が果たした役割は軍事だけにとどまらない。18世紀末には丘の一角に造幣所が置かれ、金貨・銀貨・銅貨が鋳造されていたという記録も残っている。一つの丘が、武力による支配だけでなく、通貨という別の形の権力の源にもなっていたことになる。
名前より先にあった帝国
インド産御影石の商流には、「インペリアルレッド」「インペリアルゴールド」など、「インペリアル(帝国の)」を冠したブランド名がいくつも存在する。
多くは、輸出産業が本格化した1990年代以降、荘厳な響きを狙って付けられた、いわば商業上の修飾語にすぎない。実際にはヨーロッパの宮廷とも、いかなる王朝とも縁のない石に、市場戦略として「帝国」の名が貼り付けられているだけ、という例がほとんどである。
だが、この石に限っては事情が少し違う。名前が石に付けられるよりずっと前から、この丘は幾つもの王朝が実際に奪い合った、正真正銘の「帝国」の土地だったのだ。
石材業界にありがちな誇張気味のブランド名の中で、この一枚だけは、たまたま名は体を表していたことになる。マンゴーの果樹園の下に眠る茶色の岩盤は、かつて刀と貨幣によって奪い合われた記憶を抱えたまま、今日も静かに切り出され、世界中の建物の壁や床となって収まっている。

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