【大理石の物語 122】 御影石シリーズ 第12話 ブルーパールと、氷河が運んだ迷子石

漆黒に近い地の中に、真珠のような丸みを帯びた青い輝きが点々と浮かぶ御影石「ブルーパール」。
エメラルドパールと同じくラルヴィカイトと呼ばれる岩石の一種だが、こちらはラルヴィク近郊のトヴェダーレンという地区で採れる、特に濃く鮮やかな青の閃光を持つ品種である。同じラルヴィカイトでも、長石の結晶がどの向きにどれほどの厚みで層をなしているかによって、反射する光の色が青にも緑にも傾くとされ、トヴェダーレンの岩盤はとりわけ深みのある青が出やすい層として知られている。
世界の御影石市場でも屈指の知名度を誇り、各国のオフィスビルのロビーやキッチンカウンターとして、日々おびただしい枚数が切り出されている。
ブルーパール 採石場
ブルーパール スラブ材

氷河が運んだ石


だが、この石が初めて北欧の地を離れたのは、19世紀に商業採掘が始まったときではない。今からおよそ数十万年前、幾度となく地球を覆った氷期のたびに、スカンジナビア半島を覆う巨大な氷床が南へと這うように広がり、ラルヴィク周辺の岩盤を削り取っては、その破片を氷とともに数百キロも運び去っていった。

氷床は川のように一定の方向へゆっくりと流れ、その通り道に落ちていた岩の破片を巻き込みながら、じわじわと南下していったのだという。地質学者たちの調べによれば、こうした氷床の活動は一度きりではなく、少なくとも過去30万年のあいだに、暖かい間氷期を挟みながら幾度も繰り返されてきたという。
氷が融けたあとには、本来ならこの地にあるはずのない、青く輝く異質な岩の塊が、デンマークや北ドイツ、オランダの大地のあちこちに取り残されることになった。人間がこの石に名前をつけるよりも、はるか昔から、この石はすでに大陸を渡っていたことになる。
ブルーパール 原石

名前を持つ迷子石


ドイツの地質学者たちは、こうした氷河によって運ばれた岩塊を「ライトゲシーベ(道しるべとなる迷子石)」と呼ぶ。
ほとんどの岩石は、風化して丸くなってしまえば、どこから来たのか判別がつかなくなる。だが、ラルヴィカイトの結晶模様はきわめて特徴的で、たとえ風化して表面が傷んでいても、その青い閃光さえ残っていれば、専門家は実験室を使わずとも一目でこれがノルウェー・ラルヴィク産だと言い当てることができるという。この岩を辿ることで、地質学者は数十万年前の氷床がどの方向へ、どれほどの距離を移動したのかを逆算することさえできる。

何千種類とある岩石の中で、これほど遠くまで、これほどはっきりとした足取りを残した種類は、決して多くはない。一つの石の欠片が、目に見えない氷の川の航跡図として、今も大地に刻まれ続けているのである。
ブルーパール 規格品

堤防を守った石


こうして流れ着いた迷子石は、単なる学術的な手がかりにとどまらなかった。オランダや北ドイツの沿岸部では、畑や砂利採取場から拾い集められたこうした漂着岩が、古くから堤防の補強材として利用されてきた。
デンマークのユラン半島北部でも、海岸沿いの護岸工事に、こうした迷子石がそのまま積み上げられている光景を今も見ることができる。オランダ北部では、こうした氷河漂着岩を集めた小さな博物館や標本コレクションまで作られており、畑を耕すたびに土から出てくる石を、地元の愛好家たちが長年にわたり丹念に見分けてきたのだという。

中世の教会建築の中には、周辺で採れる岩石が乏しい土地柄、畑や海岸で拾い集めた石を寄せ集めて壁を築いた例も少なくないという。1794年にノルウェーの学者がこの石を初めて学術的に記録し、1884年に商業採掘が始まるよりもずっと前から、遠く離れたオランダやドイツの農民たちは、名前も産地も知らないまま、このノルウェー生まれの青い石を積み上げて、自分たちの土地を海から守っていたことになる。

石の旅の、二つの速度


現代のブルーパールは、トヴェダーレンの採石場で丁寧に切り出され、番号によって管理され、ミリ単位の精度でカウンタートップや外壁材に加工されて、世界中へ計画的に輸出されていく。
だが、この石が最初に故郷を離れたときの旅は、そのような精密さとはまるで無縁だった。何十万年もの歳月をかけ、氷という気まぐれな乗り物に運ばれるままに、割れ、削られ、角を落としながら、名もなき塊としてヨーロッパ各地にばらまかれていったのである。行き先も、速さも、誰ひとり決めてはいなかった。

同じ一つの岩石でありながら、自然が仕掛けた気まぐれな漂流と、人間が組み立てた計画的な輸出網という、まったく速度も意図も異なる二つの「旅」を、この石は経験してきたことになる。次にオランダやデンマークの海岸で、見慣れない黒い石ころに青い光を見つけたなら、それはもしかすると、氷に運ばれるままヨーロッパを彷徨い続けてきた、番号もつけられていない正真正銘の「野生のブルーパール」なのかもしれない。

ブルーパールについて詳しく見る

▶ ブルーパールとはどんな石か(いしらべ)

▶ ブルーパールの商品を見る(建材ネット)

大理石の物語|記事一覧

石と建築、芸術と歴史にまつわる物語。 世界の石は、ただの素材ではない。 そこには歴史と建築、人間の物語が刻まれている。

この記事を書いた人

目次