【大理石の物語 118】 御影石シリーズ 第8話 タンブラウンと、田に埋もれていた最初の都

茶褐色の地に、黒と金色の結晶が細かく散らばる御影石「タンブラウン」。
深く磨き上げると、まるでコーヒー豆を思わせる深みのある色合いが浮かび上がる。この石が切り出されるのは、インド南部、テランガーナ州カリムナガル県、ヴィラサガル村を中心とした一帯である。
カリムナガルは公式に「シティ・オブ・グラナイツ(石の街)」の異名を持つ、インド屈指の御影石産地だ。街の周辺には無数の採石場が広がり、切り出された石材はムンバイやチェンナイの港を経由して、世界各地の建材市場へと運ばれていく。日本のキッチンカウンターや床材としても、タンブラウンの名は広く流通している。

田の下に眠っていたもの


だが、この街の足元に眠っているのは、御影石の結晶粒だけではない。
カリムナガル県を流れるゴーダーヴァリー川のほとりに、コティリンガラという小さな村がある。1978年、この村の農民たちが畑を耕していたところ、土の下から大量の古い硬貨が現れた。
当初は誰も、それが何を意味するのか気づいていなかった。村の郵便局員だったナラハリという人物が、村人たちが集めていた銅貨およそ100枚を持ち出したことをきっかけに、この発見は考古学者の耳に届くことになる。
タンブラウン 原石

農民が掘り当てた王朝


1979年から1983年にかけて行われた発掘調査で、コティリンガラの地中からは実に430枚もの古銭が姿を現した。うち157枚は地表からの採集、残る273枚は発掘トレンチの中から見つかったものだという。
パンチマーク式と呼ばれるナンダ朝・マウリヤ朝時代の硬貨、地元の在地権力者(ゴーバダ、ナラナ、カムヴァヤサ、サマゴーパといった王たち)の硬貨、そして「チムカ」の名を刻んだ硬貨、これこそが、南インドの歴史を語るうえで欠かせない王朝、サータヴァーハナ朝の始祖シムカその人を指す銘だった。

発掘現場からは、長さ1000メートル、幅330メートルにも及ぶ泥の城壁、煉瓦積みの仏塔、僧院の跡なども見つかっている。一人の郵便局員が持ち込んだひと握りの銅貨から、南インド最初期の王朝の首都そのものが、地中から立ち上がってきたことになる。

デカン高原、最初の王朝


サータヴァーハナ朝は、紀元前3世紀から紀元後3世紀にかけてデカン高原一帯を治めた、南インドで記録に残る最初の主要王朝である。
プラーナ文献によれば、始祖シムカはカンヴァ朝最後の王を討ってこの王朝を興したと伝えられている。当初の都はダーニヤカタカに置かれ、後にパイタン(現マハーラーシュトラ州)、そしてこのコティリンガラへと移されたという。
移転の理由は、ゴーダーヴァリー川沿いという交通の要衝にあったためとされる。この王朝は、北インドのマウリヤ朝が衰退したのちの空白を埋める形でデカン高原に勢力を広げ、以後およそ400年にわたって南インドの政治と交易を支配した、古代インド史における重要な結節点である。

紀元1〜2世紀にかけて、この地はローマ帝国との交易の窓口としても栄え、テラコッタ工芸が盛んな都市だったことも発掘調査からわかっている。コティリンガラをはじめ、周辺のペッダバンクールやドゥリカッタといった遺跡から出土した石器・貨幣・土偶の数々は、現在カリムナガル市内の考古学博物館に収蔵され、一般に公開されている。
石の街の中心部に、二千年以上前のこの土地の記憶が、静かに展示されているのである。

二千年の地層の上に


現在のコティリンガラは、シヴァ神を祀るコーテーシュワラ・シッデーシュワラ・スワーミー寺院への巡礼地として、静かな信仰を集めている。かつて仏塔が建ち、僧院が営まれた同じ土地に、いまはヒンドゥー教の祈りが重ねられている。
仏教の記憶の上にヒンドゥー教の祈りが積み重なる、という光景も、この土地が抱える二千年以上の時間の厚みを物語っている。この村自体、現在はカリムナガル県から分離した隣接のジャグティヤール県に属しているが、ゴーダーヴァリー川を挟んだ流域という意味では、タンブラウンの採石地と同じ文化圏に属している。

そしてこの村から車でおよそ1時間ほどの距離に、タンブラウンの石切場は広がっている。一方では、農民の鍬が偶然掘り当てた銅貨から、南インド最初の王朝の首都が姿を現した。もう一方では、数億年前に固まった花崗岩の結晶粒が、静かに切り出され、世界中の建材として運ばれていく。
地質学的な時間の厚みと、人間の歴史の厚みが、同じ川のほとりの、同じ地域の土の下に、幾重にも折り重なっている。1978年にコティリンガラの畑を耕していた農民たちも、まさかその鍬の先に、二千年以上前の王朝の記憶が眠っているとは思っていなかっただろう。

カリムナガルという街が本当に抱えているのは、御影石という一つの資源だけではない。掘れば掘るほど別の時代が現れてくる、幾層もの過去そのものなのだ。
タンブラウン 規格品

タンブラウンについて詳しく見る

▶ タンブラウンとはどんな石か(いしらべ)

▶ タンブラウンの商品を見る(建材ネット)

大理石の物語|記事一覧

石と建築、芸術と歴史にまつわる物語。 世界の石は、ただの素材ではない。 そこには歴史と建築、人間の物語が刻まれている。

この記事を書いた人

目次