【大理石の物語 124】 御影石シリーズ 第14話 マルチカラーレッドと、石がまとう見えない層

黒々とした波状の縞模様が、鮮やかな赤地の上を大きくうねる御影石「マルチカラーレッド」。
輸出資料の中には「ロッソ・マルチカラー」「インディアン・ロッソ」といった別名で紹介されているものもある。インド南部、カルナタカ州のカナクプラやシモガなど、複数の産地で採れるこの石は、実は特定の一箇所の採石場を指す名前ではなく、こうした赤系の波模様を持つ石全般に対して使われる、いわば総称に近い呼び名である。
産地によって赤みの濃淡や、黒い縞の密度にも差が出るため、同じ「マルチカラーレッド」という名前でも、仕入れ先によって表情がかなり異なることも珍しくない。鉱物学的には片麻岩(ミグマタイト)に分類され、厳密には花崗岩ではない。
マルチカラーレッド 採石場

石を支える樹脂


今日流通している御影石の中には、採石場からショールームに届くまでの間に、樹脂処理を施されるものが少なくない。透明なエポキシ樹脂を石の表面全体に流し込み、目には見えないほど微細なひび割れや気孔に浸透させたのち、表面の余分な樹脂だけを研磨で削り落とす、という処理である。
石材業界で花崗岩へのエポキシ樹脂処理が本格的に広がったのは、比較的新しい。業界誌には、1980年代ごろから花崗岩の微細な亀裂を補強するためのエポキシ樹脂技術が発達したと記録されている。この工程には、石を物理的に補強するという実用的な目的があるが、副次的な効果として、石の色そのものを深く濃く見せる働きもある。石英の結晶に樹脂が浸透することで、光の反射の仕方がわずかに変化し、色がより鮮やかに、より深みを増して見えるようになるのだという。
樹脂処理された御影石では、こうした工程を経ることで、石が本来持っていた色や模様がより深く、鮮やかに見えることがある。石そのものの色に、人の手による仕上げが加わって生まれる色、と言った方が正確なのかもしれない。
マルチカラーレッド 原石

「赤」はどこまで天然なのか


マルチカラーレッドについては、一部の業界資料に、透明な樹脂だけでなく、赤い顔料を混ぜた樹脂が使われることがある、という記述も見られる。もっとも、赤系の御影石は、長石などに含まれる鉄分によって、もともと赤みを帯びている。着色された樹脂が使われる場合も、無から赤を作り出すというより、石がもともと持っている赤を補い、より均一に、より鮮やかに見せるための処理と考えた方がよいだろう。

山から切り出されたときの赤。研磨によって現れる赤。そして樹脂によって深みを増した赤。

私たちが「マルチカラーレッドの赤」と呼んでいる色は、そのどれか一つではなく、天然の石が持つ色と、人の手による仕上げとが重なったところに現れる色なのかもしれない。
マルチカラーレッド スラブ材
マルチカラーレッド スラブ材

継ぎ目に現れる、素顔の色


この樹脂処理には、現場の職人たちを悩ませる、ちょっとした副作用もある。工場でスラブの表面全体に樹脂を施したあと、実際に施工する段階でカウンタートップの形に合わせて石を切断すると、その切り口の断面には樹脂が浸透していない、いわば「素顔」の色がむき出しになる。表面の艶やかな赤とは裏腹に、切断面だけがやや薄い色合いを見せてしまうのである。この色の差を目立たなくするために、現場では専用の着色剤を切断面に塗布して、表と裏の色合いを合わせる作業が必要になることも多いという。応急処置として亜麻仁油や、時には廃エンジンオイルまで使われた例があるというから、現場の苦労がしのばれる。ショールームで見る一枚の均一な赤い石の裏側には、こうした細かな手当てが積み重ねられている。
マルチカラーレッド 規格品

石がまとう、二重の姿


いずれにせよ、ショールームで見る艶やかな赤い石と、山から切り出されたばかりの原石とは、見た目の上でかなりの隔たりがあるはずである。樹脂処理された御影石は、こうした目に見えない層をまとい、商品としての完成形に近づいていく。これは業界内では広く知られた工程であり、何かをごまかしているというわけでは必ずしもない。むしろ、微細な亀裂や孔を持つ石を補強し、建材として安定して使えるようにするための実用的な処理でもある。

実際、微細な亀裂の多い石では、樹脂処理によってスラブの強度や加工時の安定性を高めることができる。かつてなら割れや欠けのため商品になりにくかった石も、この技術によって大判のスラブとして流通させやすくなった。

それでも、「天然石」という言葉から受ける印象と、実際に流通している石の姿との間には、こうした見えない層一枚分の距離があることになる。マルチカラーレッドという名前の石を選ぶとき、私たちが本当に選んでいるのは、大地が生み出した色なのか、それとも大地と人間の技術とが共同で作り上げた色なのか。その境界線は、思っているよりもずっと曖昧なのかもしれない。

マルチカラーレッドについて詳しく見る

▶ マルチカラーレッドの特徴・産地を詳しく見る(いしらべ)

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