時折、金色に光る小さな粒子が散らばっていることがあり、これは「ゴールドスポット」と呼ばれ、この石の見どころの一つとされている。
硬質で吸水率が極めて低く、鏡のような艶が長く保たれることから、日本でも古くから建築の外壁や床材として親しまれてきた黒御影石それが「ベルファースト」である。
圧縮強さは150ニュートン毎平方ミリメートルを超え、吸水率も0.1パーセントに満たないという数値を見るだけでも、この石がいかに緻密で頑丈な結晶構造を持っているかが伝わってくる。
産地は南アフリカ共和国、ムプマランガ州の高原地帯だ。
地質学的な分類にも、これまでの黒御影石と同様に少し注釈がいる。この石も花崗岩そのものではなく斑レイ岩に分類され、なかでも特に黒味が強いことから、イタリアでは「ネロ・アソルート(絶対の黒)」という名でも流通している。
もちろん商流上は長らく「御影石」の名で扱われてきたわけで、そのあたりの呼び方には幅があると捉えておくのがよさそうである。石目の細かさと結晶の緻密さは、外壁材として長年風雨にさらされても艶を失いにくいという実用面の評価にも直結している。

遠いアイルランドから来た名前
さて、この石の名の由来だが、実はアフリカとはまったく縁のない場所からやってきている。
「ベルファースト」とは、北アイルランドの都市名そのものだ。
1892年、鉄道駅の開設をきっかけに発展したこの高原の町は、この地に農場を構えていたリチャード・チャールズ・オニールという人物にちなんで名付けられた。
オニールは北アイルランドのベルファースト出身のアイルランド人で、彼と家族、そして初期の入植者たちは、今も町の墓地に眠っているという。
アフリカの大地の奥深くから採れる漆黒の石が、地球の反対側にある港湾都市の名前を背負っている、というのが、まずこの石の面白いところである。

町は名を変えたのに
ただ、この町の名前は、今からおよそ十数年前に大きな転機を迎えている。
2009年、南アフリカ政府はアパルトヘイト後の国土再編の一環として、植民地時代に付けられた地名を各地で現地語に改める作業を進めた。
この年、ムプマランガ州だけでもベルファーストから「エマカゼニ」へ、ネルスプロイトから「ンボンベラ」へと、複数の都市名が一斉に改称されている。
エマカゼニとは現地の言葉で「寒い場所」を意味する。標高2025メートル、南アフリカでも屈指の高さと寒さを誇るこの町にとって、これほどふさわしい名前もないだろう。
前々回のルバンゴ、前回のハラレは、独立を機に旧宗主国の名を返上し、土地本来の名を取り戻した町だった。
ベルファーストもまた、同じ道をたどったことになる。ところが、そこには一つだけ違いがある。
国名や首都名が新しい名前とともに世界へ浸透していったのに対し、この石の商流上の名前だけは、今もなお「ベルファースト」のまま国際市場を流通し続けているのだ。
産地の町が名前を変えても、そこから切り出される石の呼び名は、遠いアイルランドの街の記憶を背負ったまま、静かに取り残されている。
国の名前や都市の名前と違って、一度商品として世界に根を張った石の名前は、簡単には塗り替えられないものらしい。

高原に刻まれた戦争の記憶
この高原の町は、名前の由来だけでなく、南アフリカの近代史そのものとも深く関わっている。20世紀の幕開けを目前に控えた1899年から1902年にかけて、南アフリカではイギリスとオランダ系入植者の子孫であるボーア人とのあいだで、アングロ・ボーア戦争と呼ばれる激しい戦いが繰り広げられた。
ベルファーストの町の南には「ベルフ・エン・ダル」と呼ばれる古戦場が今も残っており、この一帯が戦争末期の重要な戦場になったことを伝えている。鉄道の要衝であったこの高原の町が、双方にとって軍事上の要地となったのは、地の利を考えれば自然な成り行きだったのだろう。
なお、同じムプマランガ州には、もう一つ石にまつわる話がある。バーバートンと呼ばれる地域には、地球上で確認されている最古級の岩石群が残っており、30億年以上前の微生物の痕跡まで見つかっているという。
ベルファーストの産地そのものではないが、同じ州の大地が、片や地球最古の生命の記録を、片や名前だけが取り残された石を抱えているというのは、なんとも対照的な話である。
エマカゼニの高原は、黒い石だけの土地ではない。冷涼な気候を生かし、南アフリカ最大級のチューリップの球根が栽培され、毎年数百万個が世界へ出荷されている。渓流には鱒が棲み、霧に包まれた冬の朝は、南アフリカでも指折りの寒さになるという。花と魚と、そして黒い石。かつて戦火に巻き込まれた高原は、意外なほど穏やかな恵みに満ちている。
ベルファーストという石を手に取るとき、そこにあるのは単なる黒い御影石ではない。
土地が名前を変え、戦火の記憶を静かに乗り越えてもなお、古い名前を背負い続ける石の記憶であり、遠いアイルランドの街と、南アフリカの霧深い高原とを、今も静かに結びつけている糸でもある。

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