光を当てて傾けると、その粒がきらきらと瞬き、まるで夜空に浮かぶ銀河を覗き込んでいるような気分になる。
インド南部、アーンドラ・プラデーシュ州プラカサム県のチマクルティ村周辺で採れる黒御影石。
日本では「スターギャラクシー」、海外では「ブラックギャラクシー」とも呼ばれるこの石は、そんな幻想的な佇まいから名付けられている。
比重は3.01、吸水率はわずか0.03パーセントというデータからも、この石がいかに緻密で硬質であるかがうかがえる。硬い石であるがゆえに細かい彫刻には向かないものの、その分、鏡面に磨き上げたときの均一な艶と耐久性には定評があり、キッチンカウンターから高級ホテルのロビー、記念碑まで、幅広い用途で使われ続けている。
艶の均一さを保つため、施工の際には同じ採石場の同じ切り出し面から取った原石を選ぶことが望ましいとされる。

「ショバ・グラナイト」から「銀河」へ
まずはこの名前の来歴から辿ってみたい。この石の採掘が始まったのは1983年のこと。当初は「ショバ・グラナイト」という名前で世に出ていたという。
ところが間もなく採石権(リース)の保有者が交代したのを機に、「スターギャラクシー」として商標登録され、まず台湾へ、続いてイタリアへと輸出された。
折しもイタリア・カラーラで開かれた国際石材見本市にこの石が出品されると、その幻想的な輝きが絶賛され、一気に世界的な知名度を獲得したと伝えられている。
同じ石でも、世に出るタイミングや売り手が変わるだけで、まったく違う名前を背負うことになる。
前々回のルバンゴ、前回のハラレ、ベルファーストが土地や国の名前をめぐる物語だったのに対し、今回は商業的なブランド名の改名劇、という違った角度の「名前の物語」である。

もう一つの月の血族
地質学的な分類にも、これまでの黒御影石と同様に少し注釈がいる。この石は花崗岩そのものではなく斑レイ岩、なかでも「アノーソサイト(斜長岩)」と呼ばれる系統に分類される。石英をほとんど含まず、カルシウムに富んだ斜長石が主体であるため、地全体が深い黒に沈む。
金色に輝く粒子の正体は「ブロンザイト(古銅輝石)」と呼ばれる鉱物で、これが漆黒の中で光を弾くことで、まさに銀河の星々のような視覚効果を生み出している。
ここで、シリーズを読み続けている方には興味深い符合をお伝えしたい。この「アノーソサイト」という岩石は、第111話で取り上げたアンゴラ・ブラックとまったく同じ鉱物系統である。そして、アノーソサイトは地球だけの石ではなく、アポロ計画で持ち帰られた月の高地の岩石の大部分を占める岩石でもあった。
つまり、地球の遠く離れた二つの場所、アフリカ南西部の高原と、インド亜大陸の東ガーツ山脈で採れる二つの黒い御影石が、実は同じ「月の血族」を分かち合っていることになる。
片や大ぶりの結晶が悠然と浮かぶ黒、片や金色の星々が瞬く黒。表情はまるで違うのに、その根っこは同じ鉱物の家系に連なっている、というのは、なんとも壮大な話ではないだろうか。採掘の現場でも、良質な結晶部分がまとまって採れる場所は限られており、目当ての「銀河」に出会うまでには、地道な試掘の繰り返しが必要になるという。

一つの村を支える銀河
この石を産むチマクルティは、今や一つの村がまるごと石で生きているような土地でもある。
周辺には130を超える採石場がひしめき、地元だけで3万5000人を超える人々が採掘や加工、輸出に関わっているとされる。地図の上ではインドの片隅にすぎない一つの村が、世界の建材市場の一角を静かに支えているのである。
1983年の採掘開始から40年以上が経った今も、この石は世界中のあらゆる大陸へと輸出され続けており、「世界でもっとも成功した御影石の一つ」と評されることも少なくない。輸出先は当初の台湾やイタリアにとどまらず、中東や北アフリカ、東南アジア諸国にまで広がり、今やインド産黒御影石の中でも屈指の知名度を誇る品目に育っている。
この石を育んだ東ガーツ山脈は、インド亜大陸の東岸を南北に走る古期造山帯で、先カンブリア時代、数億年から十数億年という気の遠くなるような時間をかけて地下深くで形成された岩体が、長い年月の侵食を経て地表に姿を現している。
世界的に有名な花崗岩の産地を数多く抱えるインドの中でも、この一帯はとりわけ古い時代の岩石が露出していることで知られている。
漆黒の空間に金色の星をちりばめたこの石を眺めるとき、そこにあるのは単なる美しい模様だけではない。名前を変えながら世界に羽ばたいていった商業の物語と、遠く月の高地にまで連なる地質学的な血族の物語、そして一つの村の暮らしを支え続ける産業の物語、幾つもの物語が、この一枚の黒い石の中に、静かに折り重なっている。
ホテルのロビーや台所のカウンターの上でこの石に触れるとき、その手のひらの下には、数十億年の時間と、地球の裏側の村の営みと、月にまで連なる遠い記憶が、同時に眠っているのだと思うと、いつもの風景が少しだけ違って見えてくる。

関連記事
- ▶ 第114話 インパラブラックと、地の底の記憶
- ▶ 第113話 ベルファーストと、置き去りになった名前
- ▶ 第112話 ジンバブエ・ブラックと、石の家の記憶
- ▶ 第111話 アンゴラ・ブラックと、黒い大地が生んだ石
スターギャラクシーについて詳しく見る

















