白い大理石の断崖に囲まれたこの村に、世界中の美食家が今日も訪れる目的がある。
ラルド・ディ・コロンナータ、豚の背脂を大理石の石桶に漬け込んで熟成させた、イタリアが誇る最高の食材のひとつだ。
2004年にEUのIGP(地理的表示保護)認定を受け、「本物」はコロンナータでしか作れない。
しかしこの食材の起源は、美食とは程遠い場所にある。

採石場労働者の弁当
ラルド・ディ・コロンナータの歴史は、大理石の採掘と切り離せない。
ローマ時代から採石場で働く奴隷や労働者たちは、夜明け前に起きて急峻な山道を登り、重い石を1日中掘り続けた。
彼らに必要なのは、重くならず、腐らず、しかし高カロリーな食べ物だった。
豚の背脂、ラルドがその答えだった。
ローマ軍団兵が3日に一度ラルドを配給として受け取っていたことは、ユスティニアヌス法典にも記録されている。
採石場の奴隷も、軍人も、同じ食べ物で重労働を支えた。
労働者たちは毎朝、薄く切ったラルドと玉ねぎとトマトをザクザクとパンに挟んで弁当にした。
それを採石場の岩の上に腰掛けて食べた。
今日コロンナータのバルで出てくる「ラルドのブルスケッタ」は、その弁当の直系の子孫だ。

石桶で熟成する、唯一無二の製法
ラルド・ディ・コロンナータの何が特別かといえば、その熟成方法だ。
豚の背脂を塩、ニンニク、ローズマリー、黒コショウ、シナモン、ナツメグ、クローブとともに大理石の石桶(コンカ)に交互に層状に並べ、6か月から12か月熟成させる。
石桶はカッラーラの白大理石を職人が手で彫ったもので、極めて細かく緻密な結晶構造を持つ。
コロンナータ産の白大理石は結晶が非常に細かく純粋で、彫刻や建築だけでなくラルドの熟成にも理想的な素材だ。
石桶の大理石はわずかに多孔質で、内部の湿度と温度を一定に保つ。
石が呼吸し、脂と香辛料が完璧なオスモシス(浸透)を起こす。
冷蔵庫も、燻製も、防腐剤も使わない。大理石の石桶だけが、あの独特の風味を生み出す。
村で発見されたコンカの中には、17世紀、18世紀、19世紀のものが確認されており、この伝統が生きた記憶を超えた長さを持つことがわかる。

ミケランジェロは石だけでなく、ラルドも持ち帰った 伝説がある。
ミケランジェロはコロンナータに何度も足を運び、カナローニ採石場で彫刻用の大理石ブロックを選んだ。
そして彼は石だけを持ち帰ったのではなかった。
石桶で熟成させたラルドを一輪(ひとかたまり)、必ず持ち帰ったという。
それを証明する文書はない。
しかしこの話が500年間語り継がれてきたという事実は、ルネサンスの時代からすでにコロンナータのラルドが特別な存在だったことを物語っている。
世界最高の彫刻家が、
世界最高の石と一緒に、
世界最高の豚脂を持ち帰った。
真偽はともかく、この話はカッラーラという場所の豊かさを象徴している。
アナキストが山に逃げて、豚を連れて行った
前話(第62話)で書いたカッラーラのアナキスト蜂起と、ラルドには深い関係がある。
1894年のルニジャーナの反乱が軍によって鎮圧されると、多くの蜂起参加者が山に逃れた。
彼らは豚を何頭か連れて行き、そのラルドを塩漬けにして山の中で食いつないだ。
それ以来、ラルドはカッラーラでは「アナキストの食べ物」と結びつけて語られることがある。
採石場の弁当として始まり、
反乱者の糧食となり、
今は世界の美食家が求める食材になった。
ラルド・ディ・コロンナータの歴史は、カッラーラの労働者たちの歴史そのものだ。


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