節目にふさわしい石として、エジプトから一つ選んだ。
ガララ・ベージュ
ガララ大理石、ガララ・クリーム、ロイヤル・ベージュとも呼ばれるこの石灰岩は、エジプト北東部スエズ県のガララ山脈から採掘される。
クリームホワイトからライトベージュの均一な色調に、細かな化石と繊細な脈が走る。
古代海底に堆積した石灰質の生物遺骸が、長い時間をかけて固まった石だ。
前話(第49話)のシナイ・パールに続き、今回もエジプトの石だ。
しかし同じエジプトでも、ガララの山が抱える物語は全く異なる。


ガララとは何か
ガララ山(ジェベル・アル=ジャラーラ)はスエズ県に位置し、標高約1,000メートル。
カイロから南東へ約155キロ、紅海沿岸の山岳地帯にある。
山はガララ・アル=バハリヤ(北のガララ)とガララ・アル=キブリヤ(南のガララ)の二峰に分かれ、採石場は主に北のガララ周辺に集中している。
採掘されるガララ・ベージュは均一な色調と安定した品質で知られ、エジプト産石材の中でも最も広く輸出される種類のひとつだ。
床材、壁材、カウンタートップ、外構、用途を選ばない汎用性の高さが世界中の設計者に好まれ、ヨーロッパ、中東、アジア市場に広く流通している。
前話のシナイ・パールと同様、エジプトを代表する石灰岩だ。
しかしガララの山の最大の話は、石材産業とは別のところにある。
採石場の山の麓に、世界最古のキリスト教修道院がある
南のガララ、ガララ・アル=キブリヤ山の麓に、二つの修道院がある。
聖アントニウス修道院と聖パウロ修道院。
世界最古のキリスト教修道院だ。
4世紀のエジプト。
ローマ帝国がキリスト教を公認する直前の時代、一人の裕福な青年が財産のすべてを手放した。
聖アントニウス(251〜356年頃)、エジプトのコマという村で生まれた彼は、34歳のとき「金持ちの若者よ、持っているものをすべて売り払い、貧しい人々に与えなさい」という福音書の言葉を文字通りに受け取り、東方の砂漠へ向かった。
ガララ・アル=キブリヤ山の断崖に洞窟を見つけ、彼はそこに籠もった。
水と少しのパンだけで生き、祈り続けた。
噂を聞いた人々が集まってきた。
弟子たちが岩の周りに小屋を建て始めた。
砂漠の孤独の中から、キリスト教修道院運動の原点が生まれた。
聖アントニウスの死後、弟子たちが修道院を建てた。
紀元298〜300年頃のことだ。
それが聖アントニウス修道院、1700年以上にわたって修道士たちが暮らし続ける、世界最古の修道院のひとつだ。


籠でしか入れない要塞修道院
聖アントニウス修道院の歴史は、祈りだけでなく、戦いの歴史でもある。
中世を通じてベドウィンの略奪が繰り返された。
1484年には修道士たちが虐殺され、修道院はほぼ壊滅した。
生き残った修道士たちはカイロへ逃れ、修道院は長い間廃墟となった。
16世紀になって再建が始まり、今日の姿になった。
略奪者たちへの対策として、修道院の外壁はますます高く厚くなった。
そして外部との出入口は、城壁の高い位置に一か所だけ設けられた。
人も物資も、巨大な籠に乗り、木製の滑車で吊り上げてもらうことでしか中に入れなかった。
食料が運ばれ、巡礼者が籠に乗って空中を渡った。
地上からは梯子一本分も届かない高さに、唯一の「扉」があった。
今も修道院の城壁の上には、その巨大な籠と滑車が保存されている。
ここを訪れた観光客は、案内の修道士に連れられて城壁に上り、その装置を目にする。
今も120人の修道士が暮らしている
現在の聖アントニウス修道院は、高い城壁に囲まれた複合施設だ。
複数の教会と礼拝堂、パン工房、農園、湧き水の泉、砂漠の中に、自給自足の小さな世界がある。
120人の修道士がここで暮らし、聖アントニウスが1700年前に確立した伝統に従って生活している。
夜明け前から祈りが始まり、労働と瞑想と礼拝が一日を満たす。
現代のエジプトから車で数時間の場所に、16世紀の修道院生活が今も続いている。
修道院はコプト正教会の最も重要な聖地のひとつで、毎日数百人の巡礼者が訪れる。
歴代のコプト教皇の多くがここで修行した。山の麓の泉のそばに、聖アントニウスの墓がある。
同じ山で、新しい都市が建設されている
21世紀のガララ山には、全く異なる動きがある。
エジプト政府はガララ高原に大規模な観光リゾートと住宅地の開発計画を進めている。
紅海と地中海を見渡す高原の立地を活かし、新しい都市インフラが整備されつつある。
採石場
1700年の修道院
そして新興リゾート
同じ山の上で、三つの時代が同時に進行している。
世界最古の修道院が建つ山で、今日も大理石が掘られ、新しいリゾートが建てられている。
ガララ・ベージュは、その山から切り出されて世界へ旅立ち、どこかの床になり壁になる。
50話目の石が教えてくれること
このシリーズを書き始めて50話。毎回、石を調べるたびに驚く。
石の産地には必ず、石とは無関係に見える歴史が積み重なっている。
マフィアの語源の洞窟(第27話)
ジュリエットの墓(第28話)
ノーベル平和賞の舞台(第29話)
戦場を登った岩の花たち(第36話)
世界最古の海事法典(第40話)
独裁者の宮殿と皇后の像(第45話)
楽園という名の虐殺の地(第46話)
アルファベットの起源(第49話)
そして今回は、世界最古の修道院。
石は黙っている。
しかし石が採れる場所には、人間の最も重要な物語がいくつも眠っている。
ガララ・ベージュのクリーム色は、どこまでも穏やかだ。
荒野の砂漠の色に似た、乾いた温かさがある。
その石が採れる山の麓で、1700年前から人々が祈り続けている。
石も、祈りも、続いている。
ガララ・ベージュはエジプト・ガララ山脈で採掘される石灰岩です。 均一なクリームベージュの色調と扱いやすさから、 世界各国の建築で使用されています。



















