【大理石の物語 17】ジュラ・マーブル 1億6000万年前の海が床になる日

バイエルン州のホテルのロビーを歩く。
ベージュがかった柔らかい色調の床。よく見ると、表面に黒っぽい染みのような模様がある。

それは化石だ。
1億6000万年前の熱帯の海に生きていた生き物の、石になった残骸だ。

私たちは毎日、恐竜時代の海の底の上を歩いている。

ジュラ・マーブル(ジュラ石灰岩)の本磨き仕上げ。ベージュから灰色の地に、アンモナイトや貝類の化石が黒や茶色のシルエットで浮かび上がる。すべての石が異なる模様を持つ、世界にひとつだけの表情をしている。

1億6000万年前 熱帯の海がドイツにあった


ジュラ紀後期、現在のドイツ南部バイエルン州一帯は海の底だった。
温暖な気候の浅い熱帯の海が広がり、サンゴ礁が発達し、アンモナイトやウミユリ、魚類が海を泳ぎ、その上空を翼竜が飛んでいた。
やがてその生き物たちが死んで海底に積もり、砂や泥と混ざり合い、長い時間をかけて石灰岩の層を作った。


その層が現在のジュラ・マーブルだ。
フランコニア・アルプスのアルトミュール渓谷(バイエルン州)が主な産地で、採掘できる深さは最大45メートル。
石の中にはアンモナイト、ウミユリ、貝類の化石が点在し、1枚として同じ模様のない石が切り出される。

イエローとグレー——同じ海が生んだ、ふたつの顔


ジュラ・マーブルには大きく2種類ある。
ジュラ・イエロー(欧州ではジュラ・ベージュと呼ばれることが多い)と、ジュラ・グレーだ。


ジュラ・イエローは温かみのあるベージュから黄みがかったクリーム色で、表面に暗褐色の化石の痕跡が浮かぶ。
柔らかく落ち着いた色調は、ホテルのロビーや住宅の内装に好まれる。

対するジュラ・グレーは青みを帯びた灰色で、よりクールでモダンな印象を与える。
同じ産地、同じ地層から生まれながら、採掘する場所や深さによって色が変わる。

それが天然石の面白さだ。化石の密度や模様のパターンも1枚ごとに異なり、まったく同じ表情の石は存在しない。

ジュラ・イエロー(欧州名:ジュラ・ベージュ)。温かみのあるクリーム色に褐色の化石模様

ジュラ・グレー。青みがかった灰色でよりクールな表情。
同じ産地から採れる石とは思えないほど、異なる個性を持つ。

本磨きと水磨き、同じ石がまったく別の顔になる


本磨きにすると、化石は突然目を覚ます。

アンモナイトの輪郭が黒く浮かび上がり、1億6000万年前の海が光の中に現れる。


一方、水磨きは静かだ。

光を抑えたマットな表情の中に、化石の気配だけが沈んでいる。


同じ石なのに、まるで別の時代の海のように見える。

世界一高い「天然石張りのビル」を覆った石


ジュラ・マーブルは過去60年間、ドイツで最もよく使われた天然石だ。
ミュンヘンの公共建築、空港、ショッピングセンター、個人住宅。
石の表面に化石が浮かぶベージュや灰色の床は、ドイツの日常風景に溶け込んでいる。


しかしその用途は国境をはるかに越えた。
2011年に完成したクウェートのアル・ハムラ・タワー(高さ414メートル)
天然石の外壁を持つビルとしては世界一の高さを誇るこの超高層ビルの外壁を覆ったのが、バイエルン産のジュラ石灰岩だ。
砂漠の熱と風の中で、1億6000万年前の熱帯の海の石が、現代の超高層ビルを守っている。


2019年完成のニューヨーク・マンハッタン「35ハドソン・ヤーズ」でも2万3000枚のジュラ石灰岩パネルが外壁に使われた。
ベルリン国際空港の床にも、バイエルンの化石が眠っている。

アル・ハムラ・タワー(Al Hamra Tower)

ジュラ石灰岩を外壁に使用した現代建築。1億6000万年前の海底堆積物が、21世紀の超高層ビルを覆う。クウェート、ニューヨーク、ベルリンなど世界の大型プロジェクトに採用されている。

床に眠る「名前のない化石たち」


ジュラ・マーブルの石を磨くと、表面に黒や茶色の染みや輪郭が現れる。
それはアンモナイト、ウミユリ、貝類、魚の骨片。名前すらつけられていない無数の生き物の痕跡だ。


石材店に並ぶ1枚1枚に、異なる化石が眠っている。
同じ品番の石を10枚並べても、模様はすべて違う。
石を選ぶとき、人は知らず知らずのうちに「どの化石を床に敷くか」を選んでいることになる。

「ジュラ紀」という名前はどこから来たか


余談だが、「ジュラ紀(Jurassic)」という地質時代の名称は、フランスとスイスの国境にあるジュラ山脈(Jura Mountains)に由来する。
同じ時代の地層がヨーロッパ各地に広がっており、バイエルンの石灰岩もその一部だ。
映画『ジュラシック・パーク』のタイトルも、この地質時代から来ている。


つまりこういうことになる。

ジュラシック・パークの時代の海の底が、
今、あなたの家の床になっているかもしれない。

石は、時間そのものだ。


実際のジュラ・マーブルを見ると、化石の入り方や色合いは1枚ごとにまったく異なる。 1億6000万年前の海の痕跡は、石の中にそのまま残っている。

ジュラ・イエローを見る
ジュラ・グレーを見る

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石と建築、芸術と歴史にまつわる物語。 世界の石は、ただの素材ではない。 そこには歴史と建築、人間の物語が刻まれている。

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