【大理石の物語 73】ビアンコカララと、中国という巨大市場

世界で最も多くの建物が建てられている国はどこか。

中国だ。毎年約20億平方メートルの新しい建物が建設される。
世界全体の新築面積の約半分が中国で生まれている。
この桁外れのスケールが、ビアンコカララの市場を根本から変えた。

中国の建設ブームとビアンコカララ


1990年代末から2000年代にかけて、中国の経済成長は建設業を爆発的に拡大させた。
都市に億万長者が生まれ、富裕層の中産階級が急増し、高級マンション、五つ星ホテル、ショッピングモール、政府の公共建築が次々と建てられた。

その建設ラッシュの中で、「白い大理石の床と壁」が富と成功の象徴として一世を風靡した。
ロビーに白い大理石が敷かれていることが、建物の「格」を示す指標になった。
そしてその白い大理石の筆頭として選ばれたのが、ビアンコカララだった。

カッラーラからの大理石輸出量が急増した。
2000年代初頭から2010年代にかけて、イタリアの石材輸出の最大の仕向け地は中国になった。
カッラーラの採石場が24時間稼働し、ダイヤモンドワイヤーソーが山を削り続けた(第66話)。
第67話で書いた「山が消えていく」問題の最大の要因のひとつが、この中国需要の爆発的拡大だった。

中国人はなぜ白い大理石を愛するのか


中国の伝統文化において、白は必ずしも吉祥の色ではない。
むしろ葬儀の色として使われてきた。

それでも改革開放以降の中国では、西洋建築のイメージが「成功」の象徴として急速に浸透した。

それなのに、なぜ現代の中国富裕層はこれほど白い大理石を好むのか。

答えは「西洋の高級建築への憧れ」だ。
ヴェルサイユ宮殿、ローマの神殿、ロンドンのマーブル・アーチ(第68話)
西洋の権力と美の象徴として世界に知られた白い大理石が、「国際的な富と成功」の記号として中国市場に受容された。
白い大理石のロビーは「西洋基準の高級さ」を体現するシグナルになった。

特にビアンコカララは「カッラーラ」というブランド名自体が高級の証として認知され、中国の富裕層の間で圧倒的な人気を誇るようになった。

「中国カッラーラ」問題、偽物との戦い


需要が爆発的に増えると、必ず偽物が現れる。

中国国内にもビアンコカララに似た白い大理石がある。
需要の拡大とともに、「カッラーラ」の名を冠した類似石も数多く流通するようになった。

本物と見分けるのは容易ではない。

2200年の歴史が作ったブランドは、いつの時代も模倣を生む。
カッラーラの名前は、本物の石を離れて独り歩きしている。
それは偽物の問題であると同時に、ブランドの成功の証でもある。

インペリアル・グリーン(第54話)やロッソ・レバント(第55話)と同じ構図が、ビアンコカララでも起きている。

中国がカッラーラの「加工工場」になった


もうひとつの動きがある。
中国がカッラーラの石材の「加工輸出国」になったことだ。

イタリアから原石(ブロック)を大量に輸入し、中国国内の工場で加工(スラブ化、タイル化)して、世界中に再輸出する。
このビジネスモデルが2000年代から定着した。
中国の加工コストはイタリアより大幅に安く、同じカッラーラの石でも「中国加工品」として世界市場に出回る。

つまり「カッラーラ産」の石でも、加工が中国であればイタリアの職人技の価値は含まれない。
「どこで採れたか」と「どこで加工されたか」この二つは別の話だ。

中国市場の変化、不動産危機とその後


しかし2020年代に入り、中国の建設ブームに陰りが見え始めた。

恒大集団をはじめとする中国の大手不動産開発業者が相次いでデフォルト(債務不履行)に陥り、建設中のマンションが大量に「幽霊物件」として放置された。
中国政府は不動産投資を抑制する政策を打ち出し、新築建設量は急減した。

カッラーラへの影響は大きかった。
中国向け輸出量が減少し、石材業者は新たな市場を探し始めた。
中東(UAE、サウジアラビア)、東南アジア、インドが次の有力市場として台頭している。

世界の建設の波がどこへ向かうか、それがビアンコカララの行き先を決める。
山は今日も削られているが、その石がどの国の床に敷かれるかは、世界経済の動きによって変わり続けている。

名前の力と、石の本質


中国市場がビアンコカララに教えてくれることがある。

「カッラーラ」という名前は、2200年分の歴史と信頼の積み重ねだ(第72話)。
その名前の力が、本物の石を離れて「ブランド」として流通し、偽物を生み出し、中国の工場で加工されて世界に届く。

ミケランジェロが選んだ石(第61話)、
アナキストが掘った石(第62話)、
アウグストゥスが使った石(第64話)、
その石と同じ名前が、今日は中国のショッピングモールのロビーで「成功の象徴」として機能している。

石は変わらない。
名前に込められた意味だけが、時代とともに変わっていく。

ビアンコカララについて詳しく見る

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