これはカッラーラのある環境活動家グループのスローガンだ。
世界で最も有名な白い山が今、「山を守れ」という声と「採掘を続けろ」という声の間で、引き裂かれている。
数字が語る現実
まず数字を見てほしい。
カッラーラ周辺のアプアン・アルプスでは、これまでに730か所以上の採石場が開かれてきた。
現在稼働中のものは約160か所、そのうち81か所がカッラーラ採掘地区に集中している。
年間採掘量は約140〜150万トン、毎年、この山からそれだけの石が切り出されて世界へ旅立っていく。
そして採掘量の半分以上が、廃棄物として山に残る。
「マルメットラ」と呼ばれる大理石の粉塵と切削廃液が川を白く汚染し、「ラヴァネーティ」と呼ばれる廃石の山が斜面を埋め尽くす。
採掘された石の量よりも、山に残された傷の量の方が多い。
それがカッラーラの現実だ。

水が汚れ、山が崩れる
採掘がもたらす環境問題は、見た目の問題だけではない。
アプアン・アルプスはトスカーナ最大の水源地帯だ。
山のカルスト地形(石灰岩が水に溶けて形成される複雑な地下水系)が、周辺の村々に豊富な湧き水をもたらしてきた。
しかし採掘が地下水系を分断し、湧き水が減少している。
採掘現場から流れ出る切削廃液と大理石の粉塵が水路を汚染し、川が白く濁る。
さらに深刻なのは地質的不安定さだ。
大量の岩盤を取り除くことで山の内部バランスが崩れ、大雨のたびに土砂崩れと洪水が起きやすくなっている。
「山が空洞化している」と地質学者たちは警告する。
大理石産業の年間売上は約3億ユーロ。
しかしカッラーラはイタリアでも貧しい都市のひとつだ。
富は山から出ていくが、地元には残らない。
採石場の多くは大企業や外資系企業が所有しており、利益は地元に循環しない。
ジェームズ・ボンドが走った採石場
2008年の映画『007 慰めの報酬』の冒頭、スーパーカーが白い断崖の採石場をドリフトしながら走り抜けるシーンがある。
あの壮大な景観が、カッラーラのアプアン・アルプスだ。
世界中の観光客がこの景観に魅了される。
遠くからは雪山のように見える白い断崖、深く切り込まれた採石場の壁、山頂から垂れ下がる白い廃石、それ自体が一種の絶景として観光資源になっている。
しかしその美しさは、山が削られ続けていることの証でもある。

「アプアンを守れ」運動
2010年代、カッラーラで一人の男が立ち上がった。
エロス・テッティ
アプアン・アルプスで育った環境活動家だ。
テッティはSalviamo le Apuane(アプアンを守れ)という運動を立ち上げた。
現在1万2000人のメンバーを持つこのグループは、採石場の閉鎖と持続可能な経済への転換を求めて、抗議活動、請願、政治キャンペーンを展開してきた。
「大理石産業が地元にもたらす経済的恩恵はほとんどない。 山は削られ、水は汚れ、人は死ぬ。 しかし利益は外に出ていく」
テッティはそう訴え続けた。
彼の目標は採石場をエコツーリズム、伝統的な農業、職人産業に転換することだ。
2023年、トスカーナ州は新規採石場の開設に厳格な制限を設ける法律(地域法34/2023)を制定した。
現在稼働中の業者の40%が拡大を凍結された。
「アプアンを守れ」運動が、少しずつ成果を上げている。

「アート・ウォッシング」という批判
環境活動家たちがもうひとつ問題にするのが「アート・ウォッシング」だ。
大理石業界は「ミケランジェロの石」「芸術の素材」というイメージを前面に出し、採掘の環境破壊から目をそらさせていると批判される。
美術館やアカデミーへの寄付、芸術家の支援、これらが採掘業界の「文化的な顔」として機能し、環境問題の議論を薄める、という指摘だ。
カッラーラのアカデミー(第65話でエリザ・ボナパルトが設立したあの施設)が大理石業界の支援を受けていることも、この文脈で語られる。
石を掘ることと、石で芸術を作ることは、切り離して考えられない。
しかしその「芸術の後光」が、採掘の実態を覆い隠しているという批判だ。
ミケランジェロが来た山
ミケランジェロが22歳で馬に乗ってやってきた山(第61話)。
アナキストの石工たちが命がけで採掘した山(第62話)。
ラルドを食べた労働者たちが暮らした山(第63話)。
アウグストゥスが「煉瓦の都を大理石の都に変えた」石を産んだ山(第64話)。
エリザ・ボナパルトが芸術の拠点にした山(第65話)。
ダイヤモンドワイヤーソーが猛スピードで削り始めた山(第66話)。
その山が今、少しずつ消えている。
2200年分の歴史を持つ山が、現代の採掘速度の前では急速に失われつつある。
ミケランジェロが選んだポルヴァッチョ採石場のある谷も、今日の採掘地区と重なる。
「山は戻ってこない」
活動家たちのスローガンは、地質学的な事実だ。
人間の一生どころか、文明の尺度でも、一度削られた山は戻らない。
ビアンコカララの白い石が世界中の床と壁と彫刻を美しく飾る間、
その石が来た山は静かに、
しかし確実に、
小さくなっていく。



















