【大理石の物語 68】ビアンコカララと、石が旅した場所

カッラーラの山が削られ続けている(第67話)。では、その石はどこへ行ったのか。

2200年にわたって山から切り出されてきたビアンコカララは、世界中の建物と彫刻に散らばっている。

ローマの凱旋門から、
ロンドンのアーチから、
アメリカの議会議事堂まで、
石の行き先リストは、そのまま人類の建築の歴史になる。

ローマ、ティトゥスの凱旋門


ローマ・フォルムに立つティトゥスの凱旋門(紀元81年完成)は、高さ約20メートル、幅約13メートル。
毎年何百万人もの観光客が写真を撮るこの凱旋門の上部に、ローマ時代に「マルモ・ルネンセ(ルニの大理石)」と呼ばれたビアンコカララが使われている。

この石はローマ時代にはカッラーラではなく港の名前「ルニ」で呼ばれていた(第64話)。
凱旋門に刻まれた皇帝ティトゥスのレリーフは、ユダヤ戦争の勝利を記念するもの。
メノーラ(ユダヤの燭台)を運ぶ兵士たちが、今もビアンコカララの石に刻まれている。
ティトゥスの凱旋門

ローマ、トラヤヌス帝の記念柱


113年に完成したトラヤヌス帝の記念柱は、高さ38メートル。
柱の表面を螺旋状に巻く浮彫りには2662人の人物が刻まれ、ダキア戦争(現在のルーマニアの地での戦い)の全経緯が描かれている。
これほどの物語を刻み込む素材として、ビアンコカララが選ばれた。
1900年以上が経った今も、細部まで鮮明に読み取れる。ビアンコカララの耐久性の証だ。
トラヤヌス帝の記念柱

ピサ、奇跡の広場


ピサのドゥオーモ広場、「奇跡の広場」とも呼ばれる。
その広場に立つ大聖堂と洗礼堂と斜塔は、11〜14世紀に建設された。

ピサ大聖堂の聖壇、ジョヴァンニ・ピサーノが1302〜1311年に制作した説教壇、洗礼堂のニコラ・ピサーノの説教壇(1260年)にカッラーラの大理石が使われた。
斜塔で有名なこの広場全体に、カッラーラの白い石が満ちている。
ニコラ・ピサーノの説教壇

ロンドン、マーブル・アーチ


ロンドン、ハイド・パークの東端に立つマーブル・アーチその名の通り、ビアンコカララで作られた凱旋門だ。

もともとバッキンガム宮殿の正門として設計されたが、後にオックスフォード・ストリート、パーク・レーン、エジウェア・ロードの交差点に移設された。
ナポレオン戦争(ワーテルローの戦いを含む)でのイギリスの勝利を記念するこのアーチに、カッラーラの石が使われた。
フランスと戦って勝ったイギリスが、フランスに占領されたこともあるカッラーラの石で記念碑を作った。歴史の皮肉だ。
マーブル・アーチ

ワシントンD.C.アメリカ合衆国議会議事堂


ネオクラシック様式のアメリカ合衆国議会議事堂にも、ビアンコカララが使われている。
ルーブル宮殿とローマのパンテオンにインスパイアされた設計だ。

「自由と民主主義の殿堂」として世界に知られるこの建物が、イタリアの山の石で作られている。
アメリカの独立の精神を体現する場所に、2000年以上掘られ続けてきたイタリアの採石場の石が届いた。
アメリカ合衆国議会議事堂

ロンドンのマーブル・アーチ、ボストンのハーバード・メディカル・スクール


パンテオンからトラヤヌス帝の記念柱、ロンドンのマーブル・アーチ、マサチューセッツ州のハーバード・メディカル・スクールまで、カッラーラの大理石が建築に使われてきた。
ハーバードの医学部の建物にもビアンコカララが届いていたとは、意外な行き先だ。
ハーバード・メディカル・スクール

現代、世界に広がるビアンコカララ


ビアンコカララの行き先は現代も広がり続けている。

ドバイの超高層ビルの床。
上海の高級ホテルのロビー。
ニューヨークの億ションのバスルーム。
東京の商業施設のカウンター、
世界中の高級インテリアに、カッラーラの白い石が届いている。

ミケランジェロはカッラーラの石をダビデに変えた。
現代の建築家は同じ石をホテルのロビーに変える。
石の使われ方は変わった。
しかし山は変わらない。

石が語る地図


ティトゥスの凱旋門(ローマ)、
トラヤヌス帝の記念柱(ローマ)、
ピサの奇跡の広場(ピサ)、
フィレンツェ大聖堂(フィレンツェ)、
マーブル・アーチ(ロンドン)、
議会議事堂(ワシントン)、
ハーバード・メディカル・スクール(ボストン)、

そしてミケランジェロのダビデ(フィレンツェ)、ピエタ(バチカン)、モーセ(ローマ)。

この石が行った場所を地図に落とすと、それは人類の2000年分の「大切な場所」の地図になる。

権力の象徴、
信仰の場所、
芸術の頂点、
民主主義の殿堂
人間が「ここが大事だ」と思った場所に、カッラーラの白い石は届け続けた。

そしてその石はすべて、第67話で見た「消えていく山」から来ている。

世界中の「大切な場所」を飾るために、山は少しずつ削られてきた。

削られた山の分だけ、世界に美しいものが増えてきた。
それをどう受け止めるかは、この石を使う私たちに問われている。
ビアンコカララ 採石場
ビアンコカララ スラブ材

ビアンコカララについて詳しく見る

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