【大理石の物語 48】火の都市の温泉が作った赤いレッド・トラバーチン(イラン)という石

「火の都市」という名前の町がある。

イラン北西部、東アゼルバイジャン州。
タブリーズから南西へ約30キロ。
アゼルシャフル、ペルシャ語で「アーザル(火)」と「シャフル(都市)」を組み合わせた、文字どおり「火の都市」だ。
この町の近郊に、世界で最も希少な赤いトラバーチンの採石場がある。

赤いトラバーチン、レッド・トラバーチン(アゼルシャフル・レッド・トラバーチン、ロッソ・ペルシア、ペルシアン・レッドとも呼ばれる)。
深みのある赤から赤褐色の地色に、白い脈が平行に、あるいは波のように走る。
磨き上げると鮮烈な赤が光を反射し、見る者を圧倒する。
最も有名な採石場の名は「ソラヤ」ペルシャ語でプレアデス星団(昴)を意味する名だ。
レッドトラバーチン スラブ材

温泉が石を作る


まず、トラバーチンとは何かを説明しなければならない。

大理石は、石灰岩が地殻変動の熱と圧力で変成したものだ。
しかしトラバーチンは、全く別の方法で生まれる。

地下深くから湧き出る温泉水には、大量の炭酸カルシウムが溶け込んでいる。
その熱水が地表に出て冷やされると、溶け込んでいた石灰分が析出し、少しずつ沈積していく。
温泉の周りに石灰分が積み重なり、長い時間をかけて固まったもの。
それがトラバーチンだ。

イタリア語で「トラバーチノ」、ラテン語で「ラピス・チブルティヌス(ティブル地方の石)」
その名はローマ郊外のティヴォリに由来する。
コロッセオの外壁に使われた、あの石だ。

しかしアゼルシャフルのトラバーチンが赤い理由は、ティヴォリとは異なる。
イラン北西部には豊富な温泉が湧き出ており、その熱水に含まれる炭酸カルシウムが地表で冷やされて沈積する。
その熱水に鉄分が多く含まれているため、沈積した石灰分が酸化して赤く染まる。
錆の赤、酸化鉄が、あの鮮烈な赤を作り出している。

温泉が赤い石を作る。
火の都市に、赤い石が生まれる。

アゼルバイジャンとは「火の守護者の地」


「火の都市」アゼルシャフルが位置するのは、東アゼルバイジャン州だ。
そしてアゼルバイジャンという名前そのものが、「火」と深く結びついている。

アゼルバイジャンという名は、古代ペルシャ語の「アトゥルパト(火の守護者)」に由来し、「火の守護者たちの土地」を意味する。
紀元前4世紀、アレクサンドロス大王のペルシャ征服後にこの地を治めた太守アトロパテスの名が、やがて地域全体の名前になった。

この地域はゾロアスター教の聖地でもある。
ゾロアスター教において火は神聖な存在、真実と光の象徴だ。
地下から自然に炎が噴き出す場所がこの地域に多くあったことが、古代から「火の守護者」という名を生んだ。

隣国アゼルバイジャン共和国は今も「火の国(オドラル・ユルドゥ)」と呼ばれ、首都バクーには今もゾロアスター教の火の神殿跡が残っている。

火の守護者の地で、温泉が赤い石を作り続けている。

採石場の地下に、巨大な空洞がある


アゼルシャフルのトラバーチン採石場には、もうひとつの顔がある。

地質調査の結果、採石場の地下に巨大な空洞が存在することが判明している。
長年にわたるカルスト化(石灰岩が地下水に溶かされる現象)によって形成された空洞で、地盤沈下や陥没の危険がある。
採掘活動と地質遺産の保全と地盤リスクの管理という、三つの課題が同時に存在している。

地表では採掘が続き、地下では空洞が広がっている。
火の都市の赤い石は、文字どおり足元が空洞の上にある。

「昴」という名の採石場


アゼルシャフル周辺には複数の赤いトラバーチン採石場があるが、最も有名なのが「ソラヤ」採石場だ。

ソラヤ、ペルシャ語でプレアデス星団(昴)を意味する。
冬の夜空に輝くあの星団の名が、赤い石の採石場についている。
なぜその名がついたのか、正確な記録は残っていない。
しかし火の都市の赤い石が「昴」の名を持つというのは、この地域の詩的な感覚を示している。

ソラヤ採石場は現在も稼働しており、ダーク・レッドとミディアム・レッドの二種類が採れる。
日本ではこの石が「レッド・トラバーチン」として流通しており、床材・壁材・カウンタートップなどに使われている。

イランという石材大国


イランは世界有数の石材産出国だ。
トラバーチンに限れば、世界の生産量の約40%をイランが占めるという統計もある。

アゼルシャフルの赤だけでなく、クリーム色のクラシック・トラバーチン、シルバー、ウォルナット、ゴールデン、93種類以上のトラバーチンがイランの各地から産出される。

しかしその中で、赤いトラバーチンは特別な存在だ。
赤いトラバーチンの産地は世界に数か所しかなく、アゼルシャフルのものはその色の深みと品質において別格とされている。

3500年以上の歴史を持つゾロアスター教が「火」を神聖視したこの地で、温泉が大地を赤く染め続けてきた。
火の守護者の土地が、赤い石を産み出した。
偶然ではないような気がするのは、思い過ごしだろうか。

今日も採石場では、昴の名を冠した赤い石が切り出されている。
地下の空洞の上で、火の都市の温泉が作った石が、世界へと旅立っていく。

レッド・トラバーチンは、イラン・アゼルシャフルで産出される希少な赤色系トラバーチンです。 温泉由来の石灰分と酸化鉄が生み出す鮮やかな赤色が特徴です。

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