【大理石の物語 8】モアイはなぜ海を向いていないのか

「モアイ像は海を見ている」


そう思っている人は多い。孤島の海岸に並んで立つ石の巨人たちが、果てしない太平洋を見渡している。
そのイメージはあまりに強烈で、世界中に広まっている。


だが、これは嘘だ。
ほぼすべてのモアイは、海に背を向けて立っている。
彼らが見つめているのは、海ではなく島の内側、かつての集落があった場所だ。

イースター島東端のアフ・トンガリキに並ぶ15体のモアイ。正面から見ると海側から撮影しているため「海を向いている」ように見えるが、実際は背後に海を背負い、内陸の集落へ向かって立っている。

モアイの「向き」の真実


イースター島(ラパ・ヌイ)に現存する約1,000体のモアイのうち、海の方を向いているのはたった7体だけだ。
島中央西部の「アフ・アキビ」に立つこの7体は、春分・秋分の日に太陽が沈む方角を向いており、航海の守護者として建てられたという伝承が残る。
つまり特別な例外であり、それが「モアイは海を向いている」というイメージの源になってしまった。


残りのほぼすべては海に背を向け、かつて島に存在した12ほどの集落をぐるりと取り囲むように配置されている。
モアイは海を見ているのではない。人間を見ているのだ。

モアイの正体、死んだ首長の「力」


では、なぜ集落を向いているのか。それはモアイの「正体」に関係する。

モアイは、死んだ首長や偉大な人物を模した像だと考えられている。
部族の長が亡くなると、その霊力(「マナ」と呼ばれる)を石に宿らせ、集落の守護者として海岸の台座(アフ)の上に立てた。
モアイは「見張り」ではなく「守り神」であり、守るべき対象は海の向こうではなく、目の前の集落だった。


さらにモアイは当初、白いサンゴと赤い石でできた「目」をはめ込まれていた。
「マナ」が宿る力の源は目にあり、目が開かれたとき初めてモアイは霊力を持つとされた。
今は失われたその目が、かつては集落の人々をじっと見守っていたのだ。

石切場・ラノ・ララク。この丘で約400体のモアイが製作途中のまま放置されている。
凝灰岩を削り出して作られ、完成後は海岸の台座まで運ばれた。
最大のものは高さ21メートル、重さ90トンにも達する。

なぜ「海を向いている」と思われたのか


誤解が広まった理由はシンプルだ。観光客も写真家も、モアイの「顔」を撮ろうとする。
顔を正面から捉えようとすると、必然的に海側に立つことになる。海を背にして写真を撮れば、モアイが海の方向を向いているように見える。そのアングルが世界中に広まった。


さらに18世紀にヨーロッパ人が島に到達したとき、モアイ文明はすでに崩壊しており、ほとんどの像は倒されていた。
「モアイが何のために作られたか」を知る人間は島にいなかった。
倒れた像を見たヨーロッパ人たちが勝手に想像し、「海を向いている」というイメージを作り上げた側面もある。

モアイの顔。細長い顔、突き出た顎、深くくぼんだ目。
目にはかつてサンゴ(白目)と赤い火山岩(瞳)が埋め込まれ、「マナ」の力を宿す「目」とされた。
すべての像に目があったわけではなく、儀式の際に取り付けられたとも言われる。

モアイを倒したのは誰か「モアイ倒し戦争」


かつて島中に立っていたモアイは、17世紀ごろから次々と倒され始めた。
部族間の抗争、通称「モアイ倒し戦争」で、敵の守護像を倒すことが戦いの一部となったのだ。
相手の「マナ」を無力化するために、首の部分から倒す。倒れたモアイは砂に埋まり、頭だけが地表に残った。


「モアイは頭だけ」というイメージもここから来ている。実際は全身像で、地中に埋まった胴体を持つモアイが多く存在する。
2023年にも干上がった湖の底から新たなモアイが発見されており、今もその全貌は明らかになっていない。

日本企業が「倒れたモアイ」を起こした


現在のイースター島で最も有名な光景、アフ・トンガリキに並ぶ15体のモアイは、長らく倒れたまま放置されていた。
それを起こしたのは、高松市のクレーン企業「タダノ」だ。
1988年のテレビ番組で島の知事が「クレーンがあれば起こせるのに」と語った言葉を偶然見たタダノの社員が社長に報告し、全額自社負担でクレーンをイースター島に持ち込んだ。
1995年、15体のモアイが約400年ぶりに立ち上がった。


今、彼らは再び集落の方を向いて立っている。

海ではなく、かつて人々が暮らしていた場所を。

誰もいなくなったその場所を、
それでもなお、静かに見守り続けている。


ひとつの石に、ひとつの物語がある。

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