【大理石の物語 27】マフィアの語源が眠る採掘場、ペルラートシチリアという石

床を歩くとき、その石の下に何が眠っているか、考えたことがあるだろうか。


ミラノ中央駅の床材として。
バチカンのサン・ピエトロ大聖堂の一角として。
カサブランカの巨大モスクの内装として。

世界中の豪華な建物を黙って支えるペルラートシチリアは、白亜紀の海に生きた貝や有孔虫の化石を無数に内包する、文字どおり「地の記憶」を閉じ込めた石だ。

そしてこの石の産地には、世界で最も有名な「悪の言葉」の語源が眠っている。
ペルラートシチリア 規格品

人口5,000人の町が世界を動かす


ペルラートシチリアの産地は、シチリア島北西端のトラパニ県にある小さな町・クストナーチだ。
人口はたった5,000人。
しかしその住民のほぼ全員が、採石場か石材加工業に携わっている。

この町一帯でシチリアの石材生産の85%、イタリア全体の12%を占める。
面積わずか3km²の山腹に、200以上の採石場が刻まれている。
15世紀から石が切り出されてきたこの山が、今日も世界中の高級建築を支えている。

採掘が産業規模になったのは1950年代のことだが、石が使われてきた歴史ははるかに長い。
バロック建築が花開いた17〜18世紀のシチリアで、この地の石は島中の教会や宮殿を飾った。
バチカンのサン・ピエトロ大聖堂にも届き、カサブランカのハッサン2世モスク(世界最大のモスクのひとつ)の内装にも選ばれた。
モン・ブランの標高3,500mに建てられたイタリア有数の実業家一族の墓碑にも、この石が刻まれている。
ペルラートシチリア スラブ材

市長が営業部長を兼ねる町


クストナーチには、シチリアらしい話がある。

この町の市長は、同時に地元石材メーカーの営業部長を兼ねている。
行政と産業が分かちがたく一体化したこの構造は、まるで架空の小さな王国のようでいて、現実のシチリアそのものでもある。
住民の大半が同じ産業に生きて、石とともに暮らしている。

石の名前「ペルラート」は、イタリア語で「真珠のような」という意味だ。
表面に散りばめられた丸い方解石の塊が、貝の内側の真珠光沢を思わせることから名付けられた。
ベージュの地色に、茶色や白の斑点と脈、それぞれが太古の海の生き物の痕跡だ。

「マフィア」という言葉の揺りかご


ペルラートシチリアの採掘地、トラパニ県には、もうひとつの顔がある。

シチリア語で「mafie(マフィエ)」とは、もともとトラパニとマルサラ付近の洞窟を指す言葉だった。
逃亡者や犯罪者たちが身を潜めた、その洞窟の名が、やがて組織そのものを指すようになったとされる。
つまり「マフィア」という言葉の語源そのものが、ペルラートシチリアの採掘地と同じ土地に根ざしているのだ。

歴史的な調査によれば、トラパニ県は「マフィアの大きな勢力が存在する」と分類された自治体が44%にのぼる、シチリアでも特に濃密な地域だった。
そして反マフィア局の報告は今も、建設業をマフィアの主要な活動領域のひとつと指摘し続けている。
採石から建材へ、建材から建設へと連なるペルラートシチリアのサプライチェーンは、この島の光と影の両方を静かに貫いている。

馬の首と、石の床と


映画『ゴッドファーザー』で有名になった「馬の首」の脅迫は、今もシチリアで現実に起きる。

近年、パレルモ近郊の建設業者の敷地に、馬の首と解体された牛が置かれた事件があった。
当局はこれをマフィアの脅迫と断定した。
現代のコーサ・ノストラは銃よりもラップトップを使うようになったとはいえ、大型建設事業への関与は変わっていないという。

世界中の高級ホテルやモスクや駅の床を飾る美しいベージュの石。
その産地には、暴力と保護が混ざり合った組織が地名として刻まれ、産業と権力が家族のように絡み合い、何千万年前の化石が今日も人の足の下で眠っている。

石というのは、ただ硬くて美しいだけではない。その土地の、すべてを圧縮して固めたものだ。

ペルラートシチリアは、ベージュ系石材の中でも独特の化石模様と柔らかな表情を持つ石として知られている。

ペルラートシチリアを見る

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石と建築、芸術と歴史にまつわる物語。 世界の石は、ただの素材ではない。 そこには歴史と建築、人間の物語が刻まれている。

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