【大理石の物語 49】ターコイズの国から来たシナイ・パールという石

「シナイ」という言葉を聞いて、何を思い浮かべるだろうか。

モーセと十戒。燃える柴。紅海の奇跡。
三つの宗教が聖地と仰ぐ半島。
あるいは地政学的な緊張地帯として、ニュースで目にした地名かもしれない。

しかしその半島の地面の下から、今日も建築用の石が切り出されている。
シナイ・パール
トリエスタ大理石・ディジョン大理石・グレーパール大理石とも呼ばれるこの石灰岩は、エジプトのシナイ半島南北の採石場から採掘される。
ライトベージュからアースグレー、ブラウンのヒントを持つ繊細な色調。細かな化石を含む表面が、真珠のような柔らかな光沢を持つことから「パール(真珠)」という名が与えられた。

この石が生まれる半島には、人類の歴史の最も重要な物語がいくつも積み重なっている。
シナイパール スラブ材
シナイパール 規格品

古代エジプトが「ターコイズの国」と呼んだ半島


古代エジプト人にとって、シナイ半島は「マフカット(Mafkat)」だった。
「ターコイズの国」を意味するこの名が示すように、半島南部の山岳地帯にはターコイズと銅の豊富な鉱脈があり、最古王朝の時代から採掘が行われてきた。

ワディ・マガラ、ワディ・カーリグ、ビル・ナスブ、そしてセラビト・エル=カーディム、これらの採掘地にファラオは繰り返し遠征隊を送り込んだ。
第3王朝(紀元前2670〜2570年頃)の記録から採掘が確認されており、少なくとも第18王朝(紀元前1550〜1292年)まで採掘は続いた。

採掘されたターコイズは王室の宝飾品、神への供物、ミイラのお守りに使われた。
ツタンカーメンの黄金の埋葬マスクを彩るターコイズも、このシナイ半島から来ている。
世界で最も有名な黄金のマスクの青い輝きが、シナイの岩盤から掘り出されたものだった。

「ターコイズの女主人」の神殿と、採掘労働者たちの祈り


セラビト・エル=カーディムの採掘地には、神殿があった。

愛と美と喜びの女神ハトホルに捧げられたこの神殿は、中王国時代のセンウセレト1世(在位紀元前1971〜1926年)によって建設が始まり、増築を繰り返して数百年にわたって使われた。
ハトホルはここでは「ターコイズの女主人」として崇拝され、砂漠の過酷な労働をする採掘隊の守護者として祀られた。

神殿の壁と岩には、採掘隊長たちが残した刻文が今も読める。
「坑道は隊長サノフレトによって開かれ、『ハトホルの美を仰ぎ見る』と命名された」

採掘現場に美の女神の名をつけた職人たちの感覚が、3500年を超えて伝わってくる。

採掘隊の数や成果、隊長の名前を記録した碑文の数々は、現代の考古学者にとって古代エジプトの採掘史を解明する貴重な資料となっている。

アルファベットの起源が、この採掘場の壁にある


セラビト・エル=カーディムの採掘場には、もうひとつの世界史的な発見が眠っていた。

1905年、イギリスの考古学者フリンダース・ペトリーがこの遺跡を調査した際、岩壁に奇妙な刻文を発見した。
エジプトのヒエログリフとも、当時知られていたいかなる文字体系とも異なる記号の列。
後の研究でこれは「原シナイ文字(プロト=シナイティック・スクリプト)」と呼ばれるようになった。

エジプトのヒエログリフの形を借りながら、音を表す表音文字として使われたこの文字体系は、紀元前19〜15世紀頃に作られたと考えられている。
シナイの採掘場で働いていたカナン人の労働者たちが、エジプト文字を参考にして自分たちの言語を書くための文字を作り出した。
それが現代のアルファベットの最古の祖先だ。

フェニキア文字へ、
ギリシャ文字へ、
ラテン文字へ

石を掘る労働者が生み出した文字が、やがて世界を席巻するアルファベットになった。

石を掘る労働者たちが、文字も作っていた。

モーセが十戒を受けた山


シナイ半島南部の最高峰、ジェベル・ムーサ(モーセの山)。標高2,285メートル。
ユダヤ教、キリスト教、イスラム教の三つの宗教が聖地と仰ぐ山だ。

旧約聖書の「出エジプト記」によれば、エジプトの奴隷状態からイスラエルの民を解放したモーセは、この山で神の声を聞き、石板に刻まれた十戒を授かった。

「殺してはならない」
「盗んではならない」
「偽りの証言をしてはならない」

西洋の道徳体系の根幹をなすこれらの戒律が、石に刻まれてこの山から下りてきた。

十戒は「石板」に刻まれた。
その石板が何の石だったかは、聖書は「石の板(ルアハ・アヴェン)」と記すだけで詳細を語らない。
しかし、この山の周辺に豊富に存在する石灰岩の地層、シナイ・パールと同じ岩盤から作られた板だった可能性は十分ある。

山頂には今も小さな礼拝堂がある。
毎年何万人もの巡礼者と観光客が、夜明け前に山を登り始め、日の出とともに山頂に立つ。
2285メートルの高みから見える荒野の景色は、数千年の時を超えて変わっていない。

三つの宗教の聖地が、石材の産地でもある


シナイ・パールの採石場は、半島の北部と南部に分かれている。
南部の採石場の方が品質が高く、第一級のブロックが採れるとされるが、大きな欠陥のないブロックを得ることは難しい。それがこの石の希少性を生み出している。

同じ石はトリエスタ、ディジョン、グレー・パール、ペルラート・ロイヤルなど複数の名前で世界市場に流通している。
ヨーロッパではフランス、ベルギー、イギリス、イタリアで特に人気が高く、エジプト産石灰岩の中でもトップクラスの売れ行きを誇る。

ファラオがターコイズを掘らせ、
カナン人の労働者が文字を発明し、
モーセが神の声を聞いた半島。
その地面の下から、柔らかな真珠色の石灰岩が今日も切り出されている。

石の名前は「シナイの真珠」。
三つの宗教が聖地と呼ぶ半島から来た石は、世界中の床と壁に静かに敷かれ、貼られ、人々の足元と背景になっている。
その石の下に、人類の最も古い物語のいくつかが眠っている。

シナイ・パールはエジプト・シナイ半島で採掘される石灰岩です。 柔らかなベージュからグレーの色調と化石を含む表情が特徴で、 世界各国の建築で使用されています。

シナイ・パールを見る

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