記念の回に選んだのは、カッラーラの白い大理石(第61〜74話)の陰に隠れて、あまり語られることのない石、バルディリオだ。日本市場では主にバルディリオ・インペリアーレとバルディリオ・ヌヴォラートの2種類が流通している。どちらも青みを帯びた灰色の地に白い脈が走る、カッラーラと同じ山から採れる「もう一つの大理石」だ。


「灰色っぽい」という、ただそれだけの名前
「バルディリオ」という名前は、スペイン語の「パルディリョ(pardillo)」「灰色っぽい」を意味する言葉に由来する。
第98話で書いたシベック(スラブ語で「灰色」)、そして今回のバルディリオ(スペイン語で「灰色っぽい」)、色そのものを意味する名前が、世界中の灰色の大理石に与えられている。石に固有の物語を与えるよりも、見た目をそのまま言葉にする。人間が石に名前をつけるときの、最も素朴で実用的な発想がここにある。
なぜイタリアの石にスペイン語起源の名前がついたのか、正確な経緯は定かでない。中世以降の地中海交易の中で、言葉がイタリアに渡り、定着したのだろう。名前の出自を辿ると、思いがけず地中海全体の交易史に行き着く。
ストラボンが見た「斑模様の藍青色」
バルディリオの歴史は、カッラーラの白大理石(第64話)と同じくローマ時代に始まる。
カッラーラ盆地のフォッサカヴァ採石場は、紀元1世紀後半に開かれ、3世紀まで稼働した。今もほぼ完全な状態で保存されているこの古代ローマの採石場から切り出された石を、ローマ人は非常に重宝し、公共建築と個人の邸宅の両方に用いた。
ギリシャの地理学者ストラボンは、この石を「斑模様の藍青色」、白い波のような脈が交差する、美しい「バルディリオ」と表現した。第61〜74話で語ってきたビアンコカララの純白とは対照的な、青みを帯びた灰色の石が、すでに2000年前にローマ人の目を引いていた。
カッラーラ盆地にローマ時代の採石場が30か所ほど残っているが、これはアプアン・アルプスの他の採掘地域には見られない特徴だ。カッラーラという場所そのものが、ローマ人にとって特別な価値を持つ石の産地だった。白も、灰色も、同じ山から採れていた。
インペリアーレ、「皇帝の」という名の暗い石
バルディリオ・インペリアーレは、マッサ地域の単一の採石場から産出される、特に暗い色調の品種だ。青みがかった灰色の地に、白または濃い色の脈が不規則に走る。
「インペリアーレ(皇帝の)」という名前が示す格式の高さは、その希少性に由来する。カッラーラ、スタトゥアリオ、カラカッタといった明るい色調の大理石と組み合わせて使われることが多く、暗と明のコントラストを生む素材として、床、壁、クラッディング、カウンタートップに広く使われている。
第72話で書いたビアンコカララの品質グレード体系と同じように、バルディリオもどの採石場から採れたかによって色調が大きく変わる。「インペリアーレ」という名前を持つ石は、その中でも特に深みのある一群を指す。
ヌヴォラート、「雲のような」石
バルディリオ・ヌヴォラートは、灰色の地に白い斑点が浮かぶ品種だ。「ヌヴォラート(nuvolato)」はイタリア語で「雲のような」を意味する。その名の通り、灰色の空に白い雲が浮かぶような、柔らかく不規則な模様を持つ。
インペリアーレの硬質な印象とは対照的に、ヌヴォラートはより穏やかで、空間に落ち着きを与える石として好まれる。バルディリオ・トランビゼーラ(明るい色調)からインペリアーレ(暗い色調)まで、ヌヴォラート(白い斑点が浮かぶ灰色)、そしてカッペッラ(セラヴェッツァとリオマグノの間のカッペッラ山で採れる、青みを帯びた濃色に純白の脈が入る特別な品種)まで、バルディリオには複数の品種があるが、日本市場ではインペリアーレとヌヴォラートの2種類が主に流通している。

カッラーラの「もう一つの顔」
このシリーズで語ってきたカッラーラ(第61〜74話)は、常に「白さ」が主役だった。ミケランジェロが選んだ白、ナポレオンの妹が育てた白、高級ホテルのバスルームを飾る白——白いビアンコカララの物語を、14話にわたって追いかけてきた。
しかし同じ山には、白だけでなく、灰色の石も眠っていた。アウグストゥスが「煉瓦の都を大理石の都に変えた」と誇ったローマでも、白い神殿の床に、灰色のバルディリオが組み合わされていたかもしれない。光と影、明と暗、同じ採石場が、対照的な二つの表情を世界に提供し続けてきた。
世界の高級建築で、白い大理石だけが使われることは少ない。スタトゥアリオの白い壁の足元に、バルディリオ・インペリアーレの暗い床が広がる。雲のようなヌヴォラートが、明るい空間に静かな質感を添える。白だけでは成立しない美しさが、灰色の石によって完成する。


100話を超えて
このシリーズは、世界各地の石を一つひとつ訪ねながら、その産地に積み重なる歴史を語り続けてきた。ペルラート・シチリアから始まり、ビアンコカララの14話、大谷石と十和田石、トラバーチン、ブラジルの青い石、ライムストーン、ギリシャの白い大理石たち、100話を超えて、まだ語られていない石は世界中にある。
バルディリオという、決して主役にはならない灰色の石を100話目に選んだのには、理由がある。このシリーズが追いかけてきたのは、いつも華やかな白や鮮烈な赤だけではなかった。名前の由来をたどり、地質の成り立ちを追い、産地の歴史に分け入る。その営み自体が、目的だった。
「灰色っぽい」という、ただそれだけの名前を持つ石にも、2000年前のローマの地理学者が目を留めるだけの美しさがあった。世界には、まだ名前も知られていない石が、きっと多く眠っている。


















