【大理石の物語 107】トラバーチン特集 第6話 トラバーチンと、ゲッティセンターの丘

ロサンゼルス、サンタモニカ山脈の丘の上。

405号線を走っていると、丘の上に白く輝く建物群が現れる。コンピューター制御のトラムで丘を登ると、太平洋とロサンゼルスの街並みを見下ろす、明るい石のキャンパスが広がる。

その壁も、床も、階段も、すべて一つの石で包まれている。
ローマ近郊ティヴォリのトラバーチンだ。。
ゲッティセンター

1万6000トンの石、葉と羽根と枝の化石を探す


ゲッティセンターには約1万6000トンものトラバーチンが使われている。
だが建築家リチャード・マイヤーは、この石を磨こうとはしなかった。
自然に割れたままの表面、劈開面(へきかいめん)を、そのまま建物に使ったのである。
すると石は、もう一つの表情を見せ始めた。
ゲッティセンター
ゲッティセンター

石の中に葉を探す


壁へ近づくと、小さな葉が見える。
羽根のような模様もある。
細い枝の跡もある。
温泉の堆積物に閉じ込められ、数十万年眠っていた植物の痕跡だ。

ゲッティセンターでは、美術品を見るために訪れた人が、帰るころには壁の石に化石を探している。
展示室だけが展示ではない。
建物そのものが、一つの展示品なのである。

なぜマイヤーはトラバーチンを選んだのか


マイヤーは十三年をかけて、この建物を設計した。
アルミニウムだけでは冷たすぎる。
コンクリートだけでは歴史が足りない。
大理石では整いすぎる。
彼が求めたのは、数十万年という時間が刻まれた石だった。

白いアルミニウムが現代を語るなら、トラバーチンは地球の時間を語る。
その対比こそが、ゲッティセンターという建築の個性になった。

モダニズム建築とトラバーチン


実はマイヤーが最初ではない。
1929年、ミース・ファン・デル・ローエもまた、バルセロナ・パビリオンでトラバーチンを選んでいた。

ガラスと鉄だけで語られることの多いモダニズム建築は、その足元でいつもトラバーチンを使っていたのである。
バルセロナ万博のドイツ館(バルセロナ・パビリオン)
バルセロナ万博のドイツ館(バルセロナ・パビリオン)

ローマからロサンゼルスへ


第104話では、この石がローマを支えたことを書いた。
第105話では、ベルニーニが伝書鳩で採石場へ注文を送っていたことを書いた。
その同じティヴォリの石が、二千年後には太平洋を望む丘の上で、新しい美術館になっている。
石だけが、時代を越えて旅を続けている。

最後に


コロッセオを支えた石。
ベルニーニの列柱廊になった石。
そしてゲッティセンターの壁になった石。

そのすべては、ローマ近郊の温泉が、何十万年もかけて積み重ねた一つの石だった。
ローマの東で生まれたトラバーチンは、いま太平洋を見下ろす丘の上で、世界中から訪れる人々を迎えている。

石は動かない。
そう思われている。
だが、本当に旅を続けているのは、人ではなく石なのかもしれない。
トラバーチンロマーノ(穴埋めタイプ) 本磨き
トラバーチンロマーノ(穴あきタイプ) 本磨き

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