リムラ、かつてリュキア王国の都だった古代都市だ。入場無料、保護指定もされていない、研究者と稀な旅行者だけが訪れる場所。
しかしこの忘れられた都市の名前が、今日もトルコの石材業界で生き続けている。
アンタルヤ・ライムは、産地であるフィニケ・デメレ周辺の古代都市リムラ(Limyra)の名に由来するとされている。

リュキア王ペリクレスの都
リムラの歴史は紀元前5世紀に遡る。リュキア語の碑文には「ゼムリ」として記されており、少なくともこの時代から定住地として存在していたことがわかる。
都市が最盛期を迎えたのは紀元前4世紀前半、リュキア王ペリクレスの治世だ。ペルシャの支配下にありながら、ペリクレスは「リュキア連合」の結成を目指して領土を拡大した。
完全な独立は実現しなかったが、リムラはこの時代、リュキアの首都として栄えた。
市内には今も、岩を彫り込んだ墓、ロックカット・トゥームが数百基残っている。リュキア地方で最も多くの岩窟墓が集中する場所のひとつだ。リュキア人は死者を高い岩壁に埋葬する独特の埋葬文化を持っていた。山の斜面いっぱいに刻まれた墓の数々が、かつての都市の繁栄を物語っている。

ガイウス・カエサルが死んだ場所
リムラの遺跡には、ローマ帝国の歴史を語る重要な遺構がある。
ガイウス・カエサルの記念碑だ。
アウグストゥス帝の養子で、皇帝継承の有力候補だったガイウス・カエサルは、紀元4年、エルサレムから帰還する旅の途中、リムラで死去した。
わずか23歳だった。ローマ帝国の運命を左右したかもしれない若き皇帝候補の生涯が、この小さなリュキアの都市で終わった。
もしガイウス・カエサルが死なずに皇帝になっていたら、ローマ帝国の歴史は全く違う道を歩んだかもしれない。
歴史の分岐点のひとつが、アンタルヤ・ライムの産地と同じ土地にある。

2025年、40年探し続けたゼウス神殿が見つかった
リムラはまだ、発掘の終わっていない遺跡だ。
2025年、考古学者たちは40年近く探し続けてきたゼウス神殿の一部をついに発見した。
この神殿の存在は1982年、碑文の記録から知られていたが、正確な位置は長い間謎のままだった。発掘調査の結果、ようやくその一部が地表に現れた。古代都市の中で最も重要な神殿のひとつが、つい最近まで地中に眠っていた。
リムラには他にもローマ劇場、ヘレニズム期のプトレマイオン(記念碑)、世界最古級のセグメンタルアーチ橋(半円形ではない平らなアーチ橋)など、まだ十分に解明されていない遺構が多く残っている。研究はまだ終わっていない。

アンタルヤ・ライムという石
アンタルヤ・ライム、トルコの石灰岩で、アンタルヤ州フィニケおよびデメレの採石場から産出される。フィニケの町から約9キロ、まさにリムラの遺跡が立つ地域から切り出される石だ。
クリーム色から白を基調とした均質な構造を持ち、外壁クラッディング(外装材)として最も多く使われる。トルコ産石灰岩の中でも特に世界の建築家とデザイナーに愛されている石のひとつだ。理想的な硬度のおかげで加工性に優れ、複雑な造形にも対応できる。
フィニケ採石場とデメレ採石場、
この二つの地域がトルコ産白色石灰岩の中心地だ。
フィニケ産は細かな脈模様が特徴で、デメレ産はより緻密で高品質な白色を産出する。世界市場の需要増加に対して、生産能力の拡大が常に課題になっている。細粒の高品質ブロックを求める需要は供給を上回り続けている。


同じ海岸線、別の遺跡、ヒエラポリスとの対比
第86話で書いたトルコのトラバーチン産地・デニズリ県には、ヒエラポリスという古代都市があった。パムッカレのトラバーチンで作られた都市だ。
リムラとヒエラポリスは、どちらも古代都市の遺跡が石材産地に重なっている点で共通する。
しかしヒエラポリスは世界遺産として保護され、毎年何百万人もの観光客が訪れる。
リムラは入場無料で保護指定もない、ほとんど無名の遺跡だ。
同じトルコの地中海沿岸で、片方は世界的な観光地になり、片方は静かに忘れられている。
石材の名前として生き続けているのは後者の方だ「アンタルヤ・ライム」という名前の中に、リムラという忘れられた王国の記憶がひっそりと刻まれている。
名前だけが残った王国
ペリクレス王の宮殿は崩れ、ガイウス・カエサルの記念碑は朽ち、ゼウス神殿は1800年以上地中に埋もれていた。
リムラという都市そのものは、ほとんどの旅行者の記憶にない。
しかしこの忘れられた王国の名前は、世界中の建築とインテリアの中で生き続けている。
アンタルヤから出荷される石灰岩が「リムラ地方の石」として世界市場に流通するたび、誰も知らないリュキア王国の名前が、知らないうちに人々の家の外壁や床に刻まれている。
石は語らない。
しかしその名前の由来をたどると、忘れられた古代の王国が、静かに今日まで生き延びていることに気づく。





















