しかしカリザ・カプリ(Caliza Capri)は、イタリアではない。スペイン南東部、ムルシア州ロルカのサルシリャ・デ・ラモスで採掘される石灰岩だ。
イタリアのカプリ島とは、地理的にも地質学的にも、何の関係もない。

なぜ「カプリ」という名前がついたのか
カリザ・カプリの名前の由来について、業界の説明はこうだ。「カプリという名前は地中海の街並みを思わせる、雪のような優雅さから来ている」。
つまり地名そのものではなく、「イメージ」として借用された名前だ。
カプリ島の白い建物、地中海の明るい光、洗練された避暑地の雰囲気、そのイメージを、スペイン産の白い石灰岩のブランディングに使った。
実際の産地とは無関係に、憧れの地名が商品名になる。これは石材業界では珍しくない手法だ。第43話のローズ・オーロラ(ポルトガル産)が「オーロラ=夜明け」という詩的な名前を持つように、カリサ・カプリも実態とは異なる連想によって名付けられた。
この石には他にも数多くの別名がある。
クレマ・カプリ、カリザ・アンダルシア、カリザ・サルシ、カプリ・カリザ、クラシック・ホワイト・ライムストーン、ガリシア・カプリ、パルミラ・ベージュ、同じ石が10以上の名前で世界市場に流通している。ボラカス・ホワイト(第56話)と同じ「名前が多すぎる石」のパターンだ。
1億6700万年前の熱帯の海
カリザ・カプリは海洋起源の炭酸塩堆積岩だ。クリーム色がかった白のウーライト(鞭石)質石灰岩で、小さな化石を含む。年代は約1億6700万年前、中期ジュラ紀にまで遡る。
ウーライトとは、小さな砂粒や貝殻の破片を核にして、炭酸カルシウムが同心円状に層を重ねて形成された粒子だ。
温暖で浅い熱帯の海でのみ形成される、特殊な堆積構造だ。
1億6700万年前、現在のスペイン南東部は熱帯の浅い海だった。その海の底で、無数の小さな粒が層を重ね続けた結果が、カリザ・カプリという石になった。
非常に均質な中粒の石灰岩で、脈がなく、わずかに多孔質、その質感が「雪のような優雅さ」という形容を生んでいる。
レバンティーナ社という巨人
カリザ・カプリを語る上で欠かせないのが、採掘・流通を担うレバンティーナ社だ。
1959年創業のこのスペインの石材グループは、世界中に40の採石場、8つの工場、28の流通センターを持ち、約200種類の天然石を取り扱う。
第47話のロッソ・アリカンテもこの会社が扱う石材のひとつだ。スペインの石材産業の規模の大きさを、レバンティーナという一社が体現している。
カリザ・カプリは「First Grade(最高グレード)」「Top Selection(最上位選別)」という品質分類があり、均質な背景色と細かな粒のものが最上位とされる。
第72話で書いたビアンコカララのグレード体系と同じく、見た目の均一性が品質の指標になっている。

ピエドラ・アスール、バテイグ山の青い石
カリザ・カプリと同じスペイン南東部、アリカンテ州から、もうひとつの個性的な石灰岩が産出される。ピエドラ・アズール(アズール・バテイグ)「バテイグの青」だ。
名前の由来はバテイグ山という産地そのもの。アリカンテ州内のこの山から採れる石灰岩は、淡い青灰色から濃い青灰色まで変化し、時に白やベージュの脈が混じる。
「アズール(青)」という名前が示すように、石灰岩としては珍しい青みを帯びた色調が最大の特徴だ。
白亜紀(恐竜時代)の細粒石灰岩で、ビオカルカレナイト(化石片を含む石灰質砕屑岩)という岩石学的分類に属する。
第47話のロッソ・アリカンテと同じアリカンテ州、赤い石(ロッソ・アリカンテ)と青い石(ピエドラ・アスール)が、同じ州の異なる採石場から産出されている。


「大理石」でも「御影石」でもなく
ピエドラ・アズールには、このシリーズで繰り返し登場してきた「名前と正体のズレ」がある。
国際市場ではこの石が「マーブル(大理石)」として紹介されることがあるが、欧州規格の適用領域では「ライムストーン(石灰岩)」と呼ばなければならない。
第47話のロッソ・アリカンテ、第89話のアズール・マカウバス、第90話のアズール・バイア——大理石でも御影石でもない石が大理石や御影石の名で売られるのは、石材業界では一般的な商業的慣行だ。
ピエドラ・アスールの別名も多い。
ピエドラ・ノヴェルダ・アズール、アズール・ノヴェルダ、アズール・バテイグ、ブルー・バテイグ・ライムストーン、プラーグ・グレー・ライムストーン(プラハの灰色という意味の英語名まである)。
一つの石が、世界の異なる市場でそれぞれ異なる名前と異なるイメージを与えられている。
アリカンテ州という石の十字路
第47話で書いたロッソ・アリカンテ、そして今回のピエドラ・アズール、アリカンテ州は赤と青、二つの対照的な石灰岩を産出する土地だ。
ロッソ・アリカンテの赤は、ジュラ紀中期の海底でほとんど堆積が止まり、1000年に1〜2ミリしか積もらなかった特殊な環境が生んだ色だった(第47話)。
ピエドラ・アスールの青灰色は、白亜紀の細粒石灰岩が持つ独特の鉱物組成から来ている。
同じアリカンテ州の地下に、全く異なる色の石灰岩が眠っている。
地質の気まぐれが、ひとつの州に複数の「顔」を与えた。
借りた名前と、本物の石
カリザ・カプリはイタリアの島の名前を借り、
ピエドラ・アズールはバテイグ山という現地の名前をそのまま使った。
一つは「憧れのイメージ」を、もう一つは「産地の事実」を名前にした。
名前の付け方は石によって違う。
しかしどちらも、1億年以上前の海の底から生まれた、本物の石だ。
名前が借り物であっても、石そのものは決して借り物ではない。
スペイン南東部の乾いた大地の下に、熱帯の海だった時代の記憶が、静かに眠り続けている。




















