【大理石の物語 40】蛇が這う石と、世界最古の海の法律、セルペジャンテという石

「蛇行する」という意味の名前を持つ石がある。

セルペジャンテ(Serpeggiante)。

イタリア語で「這う」「蛇行する」を意味するこの石は、クリーム色からベージュの地色に、暗褐色から黒の細い脈が横方向に走る。
その脈の動き方が、岩の上を這う蛇の鱗に似ていることから名付けられた。
中国の市場では「木纹石(木目の石)」と呼ばれる——確かに、縦に切ると木の年輪のように見える。

この石の産地は、プッリャ州バルレッタ=アンドリア=トラーニ県の港町トラーニ。
「アドリア海の真珠」と呼ばれるこの小さな港町に、世界の海の歴史を変えた物語が眠っている。

十字軍が出発した港の石


トラーニの採石場が最も活況を呈したのは、十字軍の時代と重なる。

11世紀から12世紀にかけて、トラーニはアドリア海最大の港として栄えた。
ヴェネツィア、アマルフィ、ピサという海洋都市の名家がこぞってここに拠点を構え、トラーニはヴェネツィアをはじめヨーロッパ各地に領事館を置くほどの国際都市になった。

十字軍の兵士たちは聖地エルサレムへ向かうためにこの港から船に乗り込み、帰還する者たちもここに戻ってきた。

第4回十字軍の際には、フランス出身の石工たちがトラーニを経由して聖地へ渡り、エルサレムの聖墳墓教会をはじめ中東各地のキリスト教聖地の建設に携わった。
そして帰途、再びトラーニを通ったとき、彼らはこの地の石で大聖堂を建てた。

1094年から建設が始まったトラーニ大聖堂は、地元の石灰岩で作られている。
海のすぐそばに建つこの大聖堂は、夕陽を受けるとほのかなピンク色に輝き、水面にその姿を映す。
「ピンク色の石でできた大聖堂が、800年以上にわたって空と海の間に浮かんでいるように見える」とイタリアの旅行ガイドは書く。
十字軍の往来と石工の技術が、この景色を生み出した。
トラーニ大聖堂

世界最古の海事法典は、この港で生まれた


1063年。
トラーニで一つの文書が署名された。

「オルディナメンタ・エト・コンスエトゥド・マリス(海の慣習と法令)」
後に「ラテン西洋最古の海事法典」と呼ばれることになる文書だ。

船乗りと船主の関係、積み荷の責任、海難事故の処理、船員の賃金、地中海の海上貿易を支配するルールが、初めて文字として体系化された。

この法典は後世の海事法に広く影響を与え、現代の国際海事法の一部にも、その概念が生き続けているとされる。
トラーニのユネスコクラブは、この文書のユネスコ世界遺産登録を目指して活動している。

しかしこの法典の最も驚くべき点は、内容ではなく、署名者にある。

法典に署名した3人のうち、2人がユダヤ人だった


1063年のオルディナメンタ・マリスに署名した執政官は3人いた。

デ・ロッジェーロ
アンジェロ・デ・ブラーモ
シモン・デ・ブラード

そのうち2人、アンジェロとシモンはユダヤ人だった。

11世紀のトラーニには、南イタリア最大のユダヤ人コミュニティが存在していた。
中世の市壁の内側、港に隣接した「ジュデッカ(ユダヤ人街)」には4つのシナゴーグがあり、ユダヤ人商人たちは地中海貿易の中心的担い手として市政にも深く関与していた。

ユダヤ人の執政官たちが署名した世界最古の海事法典には、当時としては革命的な条文が含まれていた。
「船乗りは奴隷ではない。契約に基づいて扱われ、報酬を受ける自由な労働者である」。
労働者の権利という概念を、海の法律が初めて明文化したのだ。

しかしトラーニのユダヤ人コミュニティの歴史は、その後に暗転する。

1380年、シャルル3世の治世下で、多くのユダヤ人が強制的にキリスト教への改宗を迫られた。
4つのシナゴーグは教会に転用された。
ユダヤ人街の街路名だけが、ヴィア・ラ・ジュデア、ヴィア・スコラノーヴァ、ヴィア・シナゴーガ今も当時の記憶を刻んでいる。

4つのシナゴーグのうちのひとつ、スコラノーヴァは、2006年にようやく再びシナゴーグとして奉献された。
600年以上の時を超えて。

フリードリヒ2世も、この石の上に城を建てた


前話で登場したフリードリヒ2世は、トラーニにも深く関わっている。

1233年から1249年にかけて、フリードリヒはトラーニの海岸に巨大な城を建設した。
カステッロ・スヴェーヴォ・ディ・トラーニ(トラーニのシュヴァーベン城)だ。
四隅に正方形の塔を持つ堅固な要塞で、大聖堂のすぐ近くに建っている。
海に面したその姿は、何世紀にもわたってアドリア海からやってくる船を出迎えてきた。

フリードリヒはユダヤ人の住民たちに保護の地位を与え、トラーニを帝国の重要拠点のひとつとした。
「世界の驚異」と「アドリア海の真珠」、二つの存在が重なった時代が、この町の最盛期だった。
トラーニのシュヴァーベン城

蛇行する脈に、時代が閉じ込められている


セルペジャンテの採掘場は、これほどの歴史を抱えた港町の地下にある。

十字軍が踏んだ石畳。
世界最古の海の法律が署名された市庁舎の床。
ユダヤ人商人たちが行き交った港の舗装。
フリードリヒ2世の城の基礎。
それらはすべて、トラーニの石灰岩の上に作られた。

セルペジャンテの脈は横方向に流れる。
地層が積み重なった方向に、細い線が何本も平行に走る。
蛇が這うように、波が寄せるように、時間が積み重なるように。

採掘場から切り出されるとき、職人はその地層の向きに逆らわない。
石が自然に割れようとする方向に沿って、刃を入れる。
石の記憶に沿って、切る。

トラーニの石は、そうやって何百年も掘り出されてきた。

十字軍の時代も、
法典が生まれた時代も、
ユダヤ人が追われた時代も、
フリードリヒが城を建てた時代も。

蛇行する脈の中に、すべての時代が水平に積み重なっている。

セルペジャンテは、木目のような縞模様が特徴のイタリア産石灰岩として、床材や壁材に広く使われている。

セルペジャンテを見る

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